第54回「博報賞」博報賞受賞
[愛知県]一般社団法人 ハッピートークアカデミー協会
学校からの相談で出前授業を開始
昨今はインターネットや SNSの発展によって、友達や親と直に話す機会が少なくなったという子どもが増加。日常生活で幸福を感じる言葉に触れる機会や成功体験が少なくなってきていることから、子ども自身の自己肯定感が低下していることが懸念される。
フリーアナウンサーとしてコーチングを学び、企業や団体向けに話し方の講習会や研修を行う「一般社団法人ハッピートークアカデミー」の池崎晴美さんは、こうした子どもたちに「前向きな言葉を使うことで自己肯定感を高め、強く生きる力を身につけてほしい」と愛知県の小中学校を中心に「ハッピートーク出前授業」を実施している。
「きっかけは、あま市の小学校長から受けた相談でした」と話す池崎さん。「子どもたちは小学校低学年から高学年へと上がる時に人を傷つける言葉を言うようになったり、自分に自信を失うようになると聞いて、子どもたちの将来のためにも力になりたいと思いました」。池崎さんは大人向けのハッピートークプログラムを子ども向けにアレンジ。2012年から池崎さんを中心としたメンバーで出前授業を行うようになった。
当初は、小学校高学年を対象に、各学年で授業を実施。じゃんけんゲームで子どもたちの心をほぐした後、頭の中に引き出しがある図を黒板に描き、「言葉の引き出し」について講義を行う。「一番上の引き出しには口癖が入っていて、いい言葉が多いと人に対して優しくなれる。反対に否定的な言葉が多く入っている子は、普段からそういう言葉が出やすいと説明します」と話す池崎さん。その後、いい言葉で引き出しをいっぱいにするためのポイントを説明。1つは、いい言葉を言う、聞く、見ること。2つ目は自分がいい言葉を発することだと話す。「自分が言った言葉を最初に自分が聞き、それが自律神経に届くことで〝幸せホルモン〟が体中に流れて心にいい影響を与えると子どもたちに話します」。子どもたちも大いに興味を示し、「本当に?」「ホルモンはどうやって流れるの?」とさまざまな質問を投げかけるという。
こうした説明の後、子どもたちに3分間で30個の言葉を書き出してもらう。たくさんの言葉を書く子どももいれば、1つも書けない子や、悲観的な言葉を書く子もいる。「子どもたちが悪いのではなく、こうした言葉を書かせてしまう周りの環境が影響しているのだと思います」と池崎さんはいう。
その後は子どもたちが書いた言葉を発表し、黒板に記す。「ありがとう、大切だよ、という言葉の他にも、信頼している、あなたならできるなど大人でも使わないような言葉が出て、こちらが驚かされます。黒板いっぱいに書かれた言葉をみんなで唱和し、体中に幸せホルモンを流して授業を終えます」。高校でも同様の授業を行った際は、翌週も生徒たちの間に「ハッピートーク」という言葉が飛び交っていたという。
コロナ禍ではオンライン授業も
池崎さんら約30人のスタッフは、月に1回オンラインミーティングを行い、打ち合わせを行い、子どもたちに伝える力を養うために各自勉強も行っている。また今の子どもたちにとって何が必要かを学校と相談し、年間プログラムに反映させて連携を図っている。
対面授業ができなかったコロナ禍では、オンライン朝礼を提案。2020年は週1回、15分間のオンライン朝礼を1校ずつ全25校で行った。「人と会うことが少なく、言葉を発する機会が少なくなった子どもたちに、まず発声練習をしてもらってからハッピートークワンポイントレッスンを行いました」。しかし、オンラインでは子どもの集中力に限界がある。そこで池崎さんは、オンライン朝礼にゲストを呼ぶことを提案。劇団俳優やeスポーツのプロデューサー、鉄道会社の車掌など子どもたちに影響を与えてくれそうなゲストを招待し、「考える力」「チームワーク」「一歩踏み出す力」などをテーマに講演を行ってもらった。「一方通行の講演ではなく、質問形式にして子どもたちの興味を惹きつけるようにしました」と池崎さん。その成果があり、職業に対する質問の他に「今の仕事で大切なことはなんですか?」など仕事に関する質問もあったという。
こうした活動が子どものキャリア教育につながると評価され、2021年には経済産業省キャリア教育アワード中小企業の部優秀賞も受賞している。「ハッピートークのこうした活動が子どもの心を育て、将来仕事に就くまでの人材育成につながることを嬉しく思っています」と池崎さんは話す。
現在もオンライン朝礼は20校以上、各月1回を行っている。「沖縄の小学校とあま市の小学校をつないでオンライン朝礼を行ったり、市長や知事をゲストに迎えて子どもたちの質問に応えてもらったりと、時代に沿った内容で行うことを心がけています」。
ハッピートークでは各学校に対して1回目と最後の回の後にアンケートを収集。「子どもたちが前向きな言葉をよく使うようになった」「ハッピートークという言葉が年間を通して聞かれるようになった」という回答が返ってきている。池崎さんは「私たちの活動が少しずつでも子どもたちに変化を与えてきていることを実感します」と話す。
言葉を可視化し、潜在意識に残す
ハッピートーク授業では、3学期の最後に自分のいいところや感謝を伝える言葉、名言などを書き込む「ハピネスマップ」を作成。「努力は裏切らない」「みんな違って、みんないい」など、大人も思いつかないような言葉を書く子もいる。また「上級生になったら相手の気持ちを考える人になりたい」「強くて優しい人になる」などの言葉も。さらに、授業を受けて「プラスの言葉を話すようになった」「笑顔が増えた」「自分の気持ちをはっきりと出せるようになった」などの前向きな言葉や、「みんなの意見を聞けたことがよかった」「自分を変える機会となったことが嬉しい」という感想も聞かれた。
「自分に自信が持てる言葉は急に身につくことではありません。ハッピートークを通して自分の体に言葉を浸透させ、ハピネスマップで可視化することで潜在意識に残していく。それが自己肯定感につながると思います」と池崎さん。「私たちの活動を継続し、いい言葉を根付かせて子どもたちの心を育てていきたいと思っています。また子どもたちにとってこの経験が将来を生き抜く力につながると考えています」。
ハッピートークの授業は当面、あま市や愛西市など愛知県の小学校で行いつつ、今後はオンラインの出前授業も充実させたいと池崎さんはいう。「言葉は子どもだけではなく大人も使うツールなので、ハッピートークを必要とする人々みんなに伝えていきたい。今後は地域の方々に対しても、こうした取り組みができるようになればと考えています」。
(企画・制作/中日新聞広告局 中日新聞2024年3月14日 掲載分より転載)
※記載の所属・役職は、受賞当時のものです。
博報賞とは
「博報賞」は、児童教育現場の活性化と支援を目的に、財団創立とともにつくられました。日々教育現場で尽力されている学校・団体・教育実践者の「波及効果が期待できる草の根的な活動と貢献」を顕彰しています。また、その成果の共有、地道な活動の継続と拡大の支援も行っています。
※活動領域:国語教育/日本語教育/特別支援教育/日本文化・ふるさと共創教育/国際文化・多文化共生教育 など