第54回「博報賞」博報賞受賞
[石川県]能登町立小木小学校
能登半島地震に負けず 子どもたちの笑顔が希望の光
令和6年能登半島地震により、奥能登は壊滅的な被害を受けた。第54回「博報賞」を受賞した能登町立小木小学校のある能登町の被害も甚大だった。幸い、同小児童51人は全員無事だった。小木小は避難所となったものの、1月12日から学校開放、同22日には始業式が行われ、子どもたちの笑顔や元気な姿が地元の人の希望の光になっている。同賞を受賞した小木小の海洋教育について紹介する。
恵まれた海洋資源を活用 町を挙げて海洋教育を推進
能登町小木は能登半島の北東部に位置する。小木港はイカ釣りの港として栄えてきた歴史があり、青森県の八戸港、北海道の函館港と並ぶ「日本三大イカ釣り漁港」として知られている。特に、ブランドイカである小木の「船凍イカ」は、捕れたての生きたイカを船上で一パイずつ急速冷凍したもので、解凍後も上品な甘みがあり、歯ごたえはコリコリ。身だけでなく、ワタやゲソまで生で食べられるのが特長だ。
恵まれた海洋資源をフル活用し、能登町では町を挙げて海洋教育を推進している。小木小は2015(平成27)年に拠点校に指定され、独自の「里海学習」を進めてきた。今年度「博報賞」を受賞したのはこの「里海学習」で、「海に親しむ」、「海を知る」、「海を守る」、「海を利用する」という4つの視点から、「海に親しみ、ふるさとにほこりと愛着を持つ児童の育成」を研究主題に掲げ、単に海について学ぶだけでなく、教科学習をより質の高い形で行うことを目標にしている。
1、2年生は生活科、3年生以上は総合的な学習の時間、加えて5、6年生は文部科学省に特例申請して設置された里海科の時間に学習を進めている。港町育ちの児童は、漁に出て魚を捕り、加工したり、市場を通して店に並ぶという、魚が食卓に並ぶまでのプロセスを身近なこととして〝肌で知っている〟子が多い。しかし、教科学習として改めて魚や海をとらえることで、新たな興味や気づきを得て、学習意欲の深まりや広がりにつながっている。
里海学習のスタートは調べ学習から。学年ごとの課題やテーマに合わせ、タブレットを駆使して進めていく。調べた情報をグループでまとめ、発表を行う。例えば3、4年生は「小木イカPR大作戦」に取り組み、イカの身体について熱心に調べた。「イカは 10本足ではなく、8本が足で、2本は触腕」、「イカの心臓は3つある」、「イカの血はヘモグロビンではなく、ヘモシアニンの銅が酸素と反応して青くなる」などイカの秘密を調べ上げ、タブレットでスライドにして発表。それをクラス全員で批評し合い、「項目を整理した方が分かりやすい」、「もっとイラストを増やそう」などさらに内容を充実させていく。情報を精査し、まとめ方を工夫しているのは、交流のある京都府・亀岡市立西別院小学校の子どもたちにふるさと小木の良さを伝えるため。遠方の友人に伝えることを意識することで、ICTのスムーズな活用にも役立っている。
海で実施する独自の体験活動 ふるさとの担い手に成長
とはいえ、里海学習の醍醐味は海にある。知識を身につけた児童らは海に出て、磯で生物と触れ合ったり、乗船体験、海洋ゴミ収集などさまざまな体験活動を通して学びを深めていく。釣り体験は全校児童がペアになり、高学年が低学年に釣るポイントやエサのつけ方を教えたり、助けたりしながら進める。海の楽しさを知ると同時に、子ども同士の信頼関係、安全意識の高揚、ルールを守る大切さなどを自然に身につける。
3年生は海と川のつながりを調べ、「川をきれいに保つことが海にとっても役立つ」と幅広い環境に目を向けられるようになり、視野が広がった。小木のイカについて調べていた4年生は、小木が日本有数のスルメイカの水揚げ量であることを知り、ふるさとを誇る気持ちが芽生え、西別院小の児童に小木のイカを使った郷土料理「塩いかと大根の桜おすまし」を紹介した。
3、4年生は小木のイカの魅力を発信する「能登小木港イカす会」で、金沢大学の鈴木信雄教授の指導の下、イカの解剖を行うのが恒例となっている。そのほか、総合的な学習の時間でも解剖を行う。5年生は里海科の理科領域で水中の植物の受粉について学び、水中の受粉には潮の満ち引きが重要な役割を果たすことなどを学んだ。6年生はイカを使った「里海給食」の開発のほか、能登海上保安署や地元観光施設で職場体験を行い、地元食材の安全性とおいしさを再認識するとともに、海と生きる厳しさと楽しさを体感した。1年生は海藻アート、2年生は海の生きものの飼育などに挑戦した。
里海学習は里海科主任の教師が教育課程の編成やスケジュール調整を担当。教材は各教師が授業に合わせて毎年新しいものを作り上げ、使った教材の良かった点や課題を整理してアイデアを蓄積しており、教師陣の地道な努力が里海学習を下支えしている。また、能登里海教育研究所や金沢大学臨海実験所、のと海洋ふれあいセンター、地元企業など外部のエキスパートとの連携が体験や学びの質を高めている。加藤政昭校長は「海の恵みが当たり前ではないことを授業を通じて子どもたちは理解していきます。ふるさとを知り、愛着を深めることで、将来の能登町の担い手として育っていって欲しいと思います」と期待を寄せる。里海学習で培った児童のふるさと愛がこれからの能登町を支え、震災からの復興にもつながっていく。
(企画・制作/北國新聞社 北國新聞2024年3月15日 掲載分より転載)
※記載の所属・役職は、受賞当時のものです。
博報賞とは
「博報賞」は、児童教育現場の活性化と支援を目的に、財団創立とともにつくられました。日々教育現場で尽力されている学校・団体・教育実践者の「波及効果が期待できる草の根的な活動と貢献」を顕彰しています。また、その成果の共有、地道な活動の継続と拡大の支援も行っています。
※活動領域:国語教育/日本語教育/特別支援教育/日本文化・ふるさと共創教育/国際文化・多文化共生教育 など