第54回「博報賞」博報賞受賞
[千葉県]NPO法人 多文化フリースクールちば
千葉県の在留外国人数は2013~2022年までの 10年間で約 1.7倍に増加し、外国をルーツとする子どもの人数も比例している。この子どもの中には、日本語が十分に話せないために高校進学を諦めたり、学齢期を過ぎているために中学校や高校に在籍できないケースが多発している。
NPO法人多文化フリースクールちばは、外国にルーツがあり、母国や国内の中学校を卒業している子どもたちの学習支援と居場所づくりに取り組み、高校受験を後押し。将来の人生設計を描けるようにサポートしている。
同団体の白谷秀一代表は、高校教諭だった 1990年代、社会調査の授業で外国人労働者をテーマにした。日本語を十分に理解できない外国人労働者の子どもが高校に進学する際に正確な情報を得られていない状況を改善しようと、2002年に多文化フリースクールちばの基盤となる「日本語を母語としない生徒と保護者のための高校進路ガイダンス」を始めた。
生徒に寄り添い日本語指導、学校生活も提供
2010年ごろから母国で中学校を卒業して来日した子どもや、日本の中学校を卒業したが高校に進学できなかった外国をルーツとする 10代半ばの子どもが増加。多くが就労不可の在留資格「家族滞在」で来日しており、社会的に孤立していた。そこで2014年、外国をルーツとする子どもに学ぶ場・居場所を提供して日本語を習得させ、国内の高校進学につなげようと多文化フリースクールちばを設立した。
授業は千葉市中央区の千葉市中央コミュニティセンターを会場に、平日の4時間で年間約 220日行う。講師は日本語指導の資格と経験を持つ者や、教員免許所持者が務め、日本語、数学、英語を教える。入学は4月で、生徒は日本語能力に応じて4クラスに分けられている。千葉大生と一緒の校外学習、卒業式もあり、学校生活を満喫できる。
入会する生徒のほとんどが来日1年未満で、保護者の都合で来日。アジア出身者が大多数を占め、公的に通訳者・翻訳者がいない少数言語の割合も高い。
自身の意志に関わらず来日した生徒は無気力状態に陥っている場合も。多文化フリースクールちばが安全で安心して学習できる場であることを理解してもらうため、入学後は生徒に寄り添い、少人数体制の授業で信頼関係を築いている。
授業では、日本語学習で重要とされている初期指導を徹底して継続。生徒は徐々に日本語を習得し、2カ月ほどで日本語での質疑応答が積極的になり、短い文章でのコミュニケーションが可能になっていく。
夏には生徒が出身国を紹介する発表授業「わたしの町」がある。生徒全員が出身国について卒業生や外部ボランティアの協力を得ながら調べ、日本語でプレゼンテーションする。生徒は日本語での発表を成功させることで自信が付き、勉強へのモチベーションも高まって主体的に学ぶようになるという。
高校受験のシーズン前には面接指導も行い、生徒が自身の長所や短所、志望動機を考え、面接官に理解される日本語能力を高めている。卒業生の受験対策を聞く場を設けたり、志望校への見学を勧め、それぞれにスタッフが同行することもある。生徒はロールモデルとなる卒業生との出会いを通じて日本でも人生を切り開いていける希望が持てるという。
地域や団体と連携、共生社会実現へ貢献
多文化フリースクールちば設立以来、25の国と地域出身の 216人が卒業。高校進学希望者のほぼ全員が高校を卒業している。高校中退者が少ない要因について、白谷代表は「高校進学までに日本語の基礎を総合的体系的に習得できているからではないか」と力説。高校入学後、後輩たちのロールモデルとなろうと張り切って通学するという。高校進学者には「日本語を母語としない生徒と保護者のための高校進路ガイダンス」で受験や高校生活の経験を披露してもらい、不安を抱える後輩たちに安心や希望を提供し、自身のエンパワーメントにもしている。
卒業生が主体的に関わるサポート活動の中にアフガニスタンの公用語の一つで少数言語のダリー語の冊子「学校からのおたより―日本の学校制度の紹介・学校からの連絡文翻訳集」がある。生徒の半数をアフガニスタン出身者が占めており、学校からの連絡が保護者へ正確に伝わらない課題の解決のため、冊子を制作。地域の小中学校、教育委員会、国際交流協会に配布すると高く評価された。卒業した生徒が小中学校の派遣指導員や通訳を担うようになるなど多文化共生社会へも大きく貢献している。
また、日本語を母語としない生徒の問題などの啓発・ネットワーク事業へも積極的に取り組んでいる。県内の各機関・団体・組織に講演会の開催を呼びかけてこれを実施している。
これらの活動を基盤として「ちば地域多文化共生円卓会議」を開催。教育委員会や行政機関、国際交流協会、ボランティア団体などが参加しており、多文化共生へ向けた気運の醸成に一役買っている。
生徒や保護者の意識は出身国により多様で複雑。画一的な対応は難しく、専門知識を有する団体や組織と協働している。千葉大学移民難民スタディーズと協力し、アフガニスタンとスリランカのコミュニティーを対象に調査して報告書にまとめ、生徒を理解する基礎資料として活用している。報告書は地元の教育委員会や小中学校、国際交流協会などに配布し、両国出身の子どもの支援に役立てている。白谷代表は「他団体との連携を密にした体制を構築すれば必要な時に協力・協働できる。他の教育現場の参考にもなる」と力説する。
国内の教育と福祉の支援制度のはざまで、日本語が十分に話せないために行き場を失う外国にルーツを持つ子どもたち。白谷代表らNPO法人多文化フリースクールちばのスタッフは積極的に寄り添い、支え、高校卒業を可能にする学びの基礎を構築している。卒業生の活動への主体的な関わりも多文化共生社会の実現を大きく前進させている。地域の大学生の参画は活動を支えるうねりを生み出しており、各団体との連携はフリースクールの先駆的モデルになると期待されている。
(企画・制作/千葉日報社東京支社 千葉日報2024年3月14日 掲載分より転載)
※記載の所属・役職は、受賞当時のものです。
博報賞とは
「博報賞」は、児童教育現場の活性化と支援を目的に、財団創立とともにつくられました。日々教育現場で尽力されている学校・団体・教育実践者の「波及効果が期待できる草の根的な活動と貢献」を顕彰しています。また、その成果の共有、地道な活動の継続と拡大の支援も行っています。
※活動領域:国語教育/日本語教育/特別支援教育/日本文化・ふるさと共創教育/国際文化・多文化共生教育 など