第54回「博報賞」博報賞受賞
[高知県]久重naturalチーム
子どもの主体性を引き出し、波及効果が期待できる草の根的な活動と貢献を顕彰する「博報賞」。第54回となった2023年度、地域を元気にしようと子どもたちが積極的にまちづくりに関わる久重naturalチームが博報賞を受賞した。
体験活動を通して 地域の魅力を再発見
高知市北部の山あいに位置する、自然豊かな久重地域。久重naturalチームは、子どもたちの主体的なまちづくり活動を応援する高知市の助成事業「こうちこどもファンド」への参加をきっかけに2018年に設立された。小学生、中学生、高校生約20人で構成され、地域住民や保護者、地域協議会などがサポートしている。
子どもたちは地域を元気にすること、地域の魅力を発信することを目的に掲げ、久重地域をよく知る人たちに教えてもらいながら主体的に里山での体験活動に取り組んでいる。その一つが季節ごとの有用植物の観察だ。さまざまな野草の生育環境を教わって探し、採取。それらを使いシェフ監修の下、レシピ集を作成したほか、オリジナルのお茶も考案してイベントで提供した。また多くの人が訪れる地元イベント「春の七草フェスタ」では、七草集めの準備やピザ作りなどさまざまな役割を担う。
活動は食分野にとどまらない。里山環境を生かした星空観察会の開催やホタル保全の看板制作、里山の美しい景観作りなど、持続可能な開発目標(SDGs)を学び考える取り組みや保全活動は多岐にわたる。
子どもたちは自分で見て触れて作る活動を通して、「自然の豊かさ」という地域の魅力を再発見していった。同時に、「人」の魅力も再発見した。子どもと地域の大人は元々知り合いではあるものの、以前は会えばあいさつする程度だった。しかし多くのことを教わる中、「植物のことはあの人に聞こう」「ものづくりならあの人に相談しよう」と頼れる間柄に変化。子どもは大人を敬う気持ち、大人は子どもを認め励ます気持ちが育まれ、今では地域全体に家族のようなつながりが生まれている。
大人に交じって まちづくりに参画
社会の変化に伴い、地域における交流の機会は減っている。また現代社会では、自然の中で走り回る子どもの姿はあまり見られない。さらに少子高齢化による活気の減少など、地域が抱える課題は全国共通といえる。久重地域もかつては同様であったが、「自然があるのは当たり前」と話していた子どもたちが活動を行うにつれ、「久重は食べられる植物の宝庫!天ぷらにしたらおいしいし、災害時には食材として使える」「久重の自然って貴重なんだ!」など生き生きと話すようになった。そしてもっと地域の人と交流したい、地元の里山を守りたいと思うようになっていった。
その願いは21年、「久重のまちづくり計画」策定に向けた会議に子どもたちが参加という形で実現した。会議では里山体験活動で学んだ地域の魅力について積極的に発言し、大人を感心させたという。
子どもの参加者数は、回を重ねるごとに増加した。今では小学生や中学生も協議会や防災連合会の役員会、祭りやイベントの実行委員会などに参加し、自分たちがやりたいことを活発に発言している。
子どもたちは「大人は見守ってフォローしてくれる。発言しやすい雰囲気です」と話す。発言や行動を受け止めてくれることで、子どもは認められていることを実感する。また、チームの大人責任者、武林由希子さんは、「必要とされていることが原動力になり、子どもたちは主体的な発言や行動ができるようになっていきました」という。その結果夏祭りや春の七草フェスタ、秋の豊穣祭などイベント時にも積極的に役割を担うようになった。自らの存在感、責任感をしっかり感じながら、彼らは周囲を盛り上げている。
地域に生まれた躍動感 豊かな里山を次代へ
コロナ禍の一時中止を経て、活動は23年度で5年目となった。継続できる理由は「やらされているものではないから」と子どもたちは話す。「自分たちが主役となりみんな一緒に楽しんでいます。里山の魅力が見つかったら、それをどう生かそう、どんな活動につなげようと話し合う。やりたいことが派生的に生まれてくるんです」。そうした活動を大人たちが全力でサポートしてくれるので、地域への愛着がより深まっていく。また久重地域では、子どもたちが年齢差を超えて一緒に遊ぶことが日常的。深いつながりや、チーム内における安心感、信頼し合える関係性が、活動を支えている。
なお冒頭で紹介した「こうちこどもファンド」事業では、プレゼンテーションが必須。発表に備え子どもたちは全員で資料を作成し、子ども審査員からの質問に向けて準備を行う。みんなで活動を見直し、次年度の計画を練って人前で発表する、その経験の積み重ねが積極性や自主性を育んでいる。
また月に1~2回程度の活動時には、参加者全員が感想を発表する。人前で発言することに最初は消極的な低学年の子も多いが、一緒に活動する上級生や見守ってくれる大人たちを見て、自主的に発言できるようになっていくという。
活動は地域外にも広がっている。市の広報紙や地元ラジオ局の取材を受けたり、防災イベントや環境フェアなどに出店したりと、里山の魅力を発信する機会が増えた。こうした場でも彼らはコミュニケーション力を活かし堂々と発言している。
武林さんは「まちづくりに子どもが関わると地域に活気が生まれ、まちが動くと実感する。地域全体に躍動感が生まれています」と話す。なお今回の博報賞受賞を機に、子どもたちは次の目標を立てた。それは地域の人が集う小屋(通称:東屋(あずまや))を建て、みんなでお花見や星空観察会ができる公園を整備することだ。「豊かな里山 次代へつなげ!」のスローガンを胸に、誰もが住み続けられるまちづくりを目指す久重地域。子どもたちの次なる目標を、大人は今後も温かく見守り、そして力強く支えていく。
(企画・制作/高知新聞社営業局 高知新聞2024年3月15日 掲載分より転載)
※記載の所属・役職は、受賞当時のものです。
博報賞とは
「博報賞」は、児童教育現場の活性化と支援を目的に、財団創立とともにつくられました。日々教育現場で尽力されている学校・団体・教育実践者の「波及効果が期待できる草の根的な活動と貢献」を顕彰しています。また、その成果の共有、地道な活動の継続と拡大の支援も行っています。
※活動領域:国語教育/日本語教育/特別支援教育/日本文化・ふるさと共創教育/国際文化・多文化共生教育 など