第55回「博報賞」博報賞・文部科学大臣賞受賞
[山口県]下関市立本村小学校
源氏に追い詰められた末に下関・壇ノ浦の戦いで敗れ、その栄華の時をはかなくも閉じた平家一門。下関が誇る伝統芸能「平家踊り」は、彼らを供養する踊りをルーツとし、港町という土地柄から全国各地の踊りが融合されて今の形になったと伝えられる。
本村小学校(下関市彦島本村町)はこの郷土の踊りを子どもたちの手で継承していくだけでなく、数年前にコミュニティ・スクールの仕組みを取り入れたことで、地域の課題を自分たちの力で見つけて活性化のために貢献していこうという主体的な活動へと発展をみせている。
平家ゆかりの地で受け継ぐ伝統芸能
木曜日の夜、体育館から勇壮に打ち鳴らされる和太鼓と軽快な三味線の音色、そして口説き節の伸びやかな音頭の歌声が聞こえてきた。週1回の「本村小平家踊りを受け継ぐ子の会」の練習が始まった。「さっきよりも上手にたたけたぞ」。ばちを手に児童の演奏を見守っていた大人が笑顔で励ます。指導するのは地元の下関平家踊保存会彦島連のメンバーだ。ほかにも保護者、教職員が練習に加わり、近くの中学校の生徒も一緒に音頭に参加する。「練習は大変だけど、みんなで協力して演奏するところがすごく楽しい」。6年の男子児童はこう話しながら笑顔を浮かべた。

受け継ぐ子の会は1984年に結成。学校がある本村地区は840年前の壇ノ浦の戦いで平家が陣を張り、本村の多くの漁師が船のこぎ手として源平合戦に参加したゆかりの地だ。校区内に平家踊りの演奏者がたくさんおり、40年にわたって指導してきた。上級生から下級生へと引き継ぎ、下関市内で現在、踊りと太鼓、三味線、音頭の全てを子どもたちで演奏できるのは本村小の会だけという。
一方、中心市街地に近い場所にありながら児童数の減少が急速に進んでいる。会の発足時に600人超いた児童は、現在の前田真奈美校長が着任した20年度は90人。24年度は45人、そして25年度は38人になる見通しだ。さらに地域の指導者の多くが80歳を超え、指導の継続も難しくなる。新型コロナウイルス感染拡大でイベントがなくなり、発表の機会が失われたために子どもたちのモチベーションが下がるなど、さまざまな問題に直面した。「これまで特色だった『子どもたちだけの活動』が、このままでは存続できないことに気が付いた」と前田校長は当時を振り返る。
コミュニティ・スクールで広がる活動の輪
そこで同じ中学校区内にある西山小学校と玄洋中学校に声をかけ、20年度から3校でコミュニティ・スクールの仕組みを活用して学校・地域連携カリキュラム「ふるさと玄洋学」をスタートさせた。カリキュラムの中に平家踊りの継承も位置付けたことで、西山小、玄洋中で平家踊りが復活しただけでなく、本村小でも受け継ぐ子の会に加えて、これまで取り組んできた「1、2年生は踊り、3、4年は太鼓・三味線・音頭」という技能の継承学習が、5、6年生も含めた「伝統技能を通した地域活性化学習」へと発展した。

小中学校9年間の取組になったカリキュラムでは、踊りを学ぶことにとどまらず、地元に残る源平合戦ゆかりの場所を巡るなど平家踊りの歴史や由来を学ぶ学習を取り入れた。地域の人と直接話し合う「熟議」の場を設けたことで、関係者の思いや願いを聞く経験を通じて、長年続いてきたこの伝統芸能を次の世代につなげて平家踊りで地域活性化に貢献したいという思いが育まれた。それは主体的に考え、行動に移し、発信していこうとする意欲につながった。熟議から単元計画、学習、発表へと、カリキュラム・マネジメントに児童も参画することで、子どもが中心的存在となった学びを引き出すシステムが構築され、持続可能な取組となる方向性も見えてきた。
その成果は24年11月に行われた本村小の創立150周年記念行事で発揮された。児童が主体となって地域を巻き込んで盛り上げようとアイデアを出し、運動場にやぐらを組んで披露した平家踊りでは大勢集まった住民らも踊りの輪に加わって一体感が生まれた。「本村の未来は僕たちがつくる!」と高らかに宣言する子どもたちの姿は、伝統芸能の継承が郷土愛醸成や自己肯定感・自己効力感の高まりに果たす役割の大きさを実感させる象徴的な場面となった。
新たな取組で次世代に継承を
受け継ぐ子の会の活動を支えるPTAによる「受け継ぐ子の会を育てる会」の存在など、しっかりした組織があることも継続や発展に大きな役割を果たす。本村小以外にも入会を呼びかけて会員減少を防ぐとともに、中学3年まで平家踊りを一貫して続けることは平家踊り保存会にとって伝統芸能の後継者育成に期待が持てる。
本村小は26年度末での閉校が決まっており、27年度からは西山小、玄洋中と一緒になった施設一体型の小中一貫校「玄洋学園」が開校する。本村小の受け継ぐ子の会としての活動はあと2年で終わりだ。しかし、コミュニティ・スクールで先行的に取り組んだ実績を生かす形で「玄洋学園平家踊りを受け継ぐ子の会」を発足させる。

前田校長は「新たな組織に向けた話し合いや準備をスタートさせている。学校がなくなることを寂しがる声もあったが、『玄洋学園になっても平家踊りが続くのなら。学校の名前が変わるだけだ』と理解されるようになった。平家踊りにこの地域の人の根っこがあり、みんながまとまることができる」と話す。
子どもたちが地域の主役となって盛り上げていこうという最大のエネルギーになっている平家踊り。その継承活動の歩みはこれからも着実に、そして発展しながら続いていく。
(企画・制作/山口新聞社 山口新聞2025年3月17日 掲載分より転載)
※記載の所属・役職は、受賞当時のものです。
博報賞とは
「博報賞」は、児童教育現場の活性化と支援を目的に、財団創立とともにつくられました。日々教育現場で尽力されている学校・団体・教育実践者の「波及効果が期待できる草の根的な活動と貢献」を顕彰しています。また、その成果の共有、地道な活動の継続と拡大の支援も行っています。
※活動領域:国語教育/日本語教育/特別支援教育/日本文化・ふるさと共創教育/国際文化・多文化共生教育 など
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