第55回「博報賞」博報賞受賞
[福井県]勝山市立成器西小学校
福井県の東北部に位置する勝山市では、市内の小学校および中学校がユネスコスクールに加盟し、市をあげて持続可能な社会作りの担い手を育むための教育「ESD」活動に取り組んでいる。そうした中、勝山市の中心部に位置する成器西小学校は、県指定無形文化財「勝山左義長まつり」をモチーフにした「西の子左義長まつり」を独自に開催。300年以上の歴史を持つ地域の祭りを子どもたちに身近に感じてもらいたいとの思いから始めたもので、2月下旬に開催される「勝山左義長まつり」に連なるよう、2月上旬に毎年実施している。この活動を通して、地域の宝である伝統の祭りを未来に遺していきたいとの思いが子どもたちや保護者にしっかりと根付き、少子高齢化が進む時代においても持続可能な地域の担い手を生み出している。
異なる学年のペア練習で自信と思いやりを育む
「勝山左義長まつり」は、じゅばんを身にまとい、各地区に建てられた櫓の上でお囃子と共に太鼓を打ちながら踊る「浮き太鼓」が特徴。また、市内の大通りを飾る色鮮やかな短冊や、日用品を活用した「作り物」の展示、世相を風刺した川柳や挿絵を添えた「絵行燈」も見どころだ。成器西小学校では、祭り本番における最大の見せ場である浮き太鼓を全学年が練習し、「西の子左義長まつり」で保護者や地域住民に披露。第一部は6年生が単独でステージ発表を行う。じゅばんを着た華麗な姿に下級生たちは憧れの念を抱く。発表を終えた6年生男子は「練習を重ねることで自分の成長を実感できた」と誇らしげに語り、「地域の伝統を未来に遺したい」との思いが強まったと言う。

第二部では、1年生と6年生、3年生と4年生、2年生と5年生がペアとなって浮き太鼓を発表。基本的な打ち方のリズムは「勝山左義長ばやし保存会」による出張授業で教わり、アレンジは自由。ペアで動きを相談し一人ひとりが創造性を発揮し、浮き太鼓を披露した。本番に向けての練習では、学年の枠を超えた温かな交流も生まれた。同校ではポジティブ教育を推進しており、練習後にペアのがんばりや長所を書いて交換。道関実代子校長は「思いやりや感謝の気持ちが互いに伝わり、学校全体がやさしさに包まれた」と目を細める。
また、会場の体育館には、1・2年生が願いを書き込んだ短冊、3年生による作り物、4年生が川柳を添えて製作した絵行燈、5年生が感銘を受けた四字熟語の習字作品が、祭り本番さながらに展示された。学年が上がるごとに作るものが変わることで、成長に合わせて祭りへの理解を深める効果を発揮している。
地域との連携、時代に合わせた変化で継続
「西の子左義長まつり」の誕生は、「勝山左義長まつり」の浮き太鼓がもたらす感動を全校児童に味わわせたいというPTAの思いが原動力となり、2002年に勝山市のある地区から古い櫓を学校が譲り受けたことがきっかけとなった。この地域との連携は代々受け継がれ、成功の大きな要因となっている。浮き太鼓は保存会から、作り物や絵行燈、川柳は地域の指導者から指導を受けることで、子どもたちは本物を知り、自分なりの表現を工夫できる。また、福祉や防災などまちづくり拠点の機能も持たせたまちづくり会館とも連携。コロナ前までは、地域ぐるみ活動の人たちと5年生が協力してマドレーヌ作りなどを行い、祭りの来場者に配付した。そこにも感謝の声が多数寄せられ、ものづくりの喜びを実感できる体験となった。まちづくり会館のロビーには、体育館を飾った短冊、作り物、絵行燈、習字が展示され、「勝山左義長まつり」本番に向けた地域の機運をさらに盛り上げている。

そして、PTAは成器西小学校と両輪で「西の子左義長まつり」の発展に長年寄与してきた。祭りを重要なPTA活動として位置づけ、ボランティア有志を募集。祭り当日には、6年生の発表でお囃子の生演奏を行い、子どもたちに忘れえぬ感動を与えている。かつてはPTAが体育館に櫓を組み立てていたが、かなりの労力を要していた。やがて櫓が老朽化し、組み立てることが困難になってきたことから、その後はステージを櫓に見立てて浮き太鼓を実施している。2025年2月に23回目の開催を終えた道関校長は「祭りを始めた当時と比べると、生徒数は約2分の1にまで減少している。少子化が進む中で少しずつかたちを変えながら、学校とPTAが連携して無理のない活動を続けてきた。これからも祭りを継続して勝山左義長まつりの伝統を守ってほしい」と語る。
祭りで広がるつながり
道関校長の願いは子どもたちに届き、新たな活動にもつながっている。浮き太鼓を学校以外でも発信したいという児童からの強い要望によって、2024年2月に福井県ふるさと教育フェスタの伝統芸能の部での披露が実現。参加した当時の6年生からは「勝山左義長まつりをより有名にしたい」「たくさんの人たちに見に来てほしい」「勝山をもっと有名にしたい」といった感想が数多く聞かれ、地域や祭りに対する愛着が強まった。
また、「西の子左義長まつり」の継続によって積極的に勝山左義長まつりに関わる子どもたちが増加。子どもがいない地区や、櫓に上がる子どもが足りない地区に成器西小の児童が助っ人として参加し、地域の新たな担い手となっている。
さらに、成器西小学校以外の小学校や中学校、こども園など勝山市全域に浮き太鼓が広がる動きが見られるようになってきた。今年は、同じ中学校区にある2つの小学校の児童が成器西小学校を訪問。成器西小学校の6年生が浮き太鼓を披露した後、太鼓の打ち方を教え、他校の児童たちと一緒に浮き太鼓を楽しんだ。道関校長は「地域に開かれた学校教育の一環として西の子左義長まつりに取り組んできた。その活動が波及したことは大変光栄」と語る。
これからも、勝山を愛し、伝統行事を大切に思う子どもたちと地域が一つになり、勝山左義長まつりを守り続けるに違いない。

(企画・制作/福井新聞社営業事業局 福井新聞2025年3月14日 掲載分より転載)
※記載の所属・役職は、受賞当時のものです。
博報賞とは
「博報賞」は、児童教育現場の活性化と支援を目的に、財団創立とともにつくられました。日々教育現場で尽力されている学校・団体・教育実践者の「波及効果が期待できる草の根的な活動と貢献」を顕彰しています。また、その成果の共有、地道な活動の継続と拡大の支援も行っています。
※活動領域:国語教育/日本語教育/特別支援教育/日本文化・ふるさと共創教育/国際文化・多文化共生教育 など
現在、第56回「博報賞」の応募を受付中です!(応募受付期間:2025年4月1日~6月25日 ※財団必着)
詳細は博報賞のページをご覧ください。
*博報賞に関するお問い合わせ先
hakuhoushou@hakuhodo.co.jp (博報賞担当宛)