第55回「博報賞」博報賞受賞
[宮城県]ことばの貯金箱「夢」プロジェクト
子どもの笑顔を取り戻す温かい励ましのことばを
ことばの貯金箱「夢」プロジェクトは、子どもたちの「ことばの力」や「コミュニケーション力」を育むことを目的に、NIE教育コンサルタントを務める渡邉裕子氏が、2013年6月に設立。その活動理念は、ことばは人を傷つけるためにあるのではなく、人を幸せにするためにあるという考え方に基づいている。
ことばの貯金箱の活動は、新聞から心に響いたことばを見つけて切り抜き、それを〝ことばの貯金箱〟に貯めていく作業から始まる。そして、貯金箱に貯めたことばの中からいくつかを選び取って台紙に貼り付け、感想を書き込む。この台紙を手に、ことばを紹介し合うことで一連のプロセスが完結。ここで重要なポイントになっているのが、貯金箱にことばを入れる際、「チャリーン!」というかけ声をかけるルールだ。ことばが貯まっていく幸福感を演出し、取り組みの意欲を高める。「ことばの億万長者になろう」というキャッチフレーズが、まさにその意図を示している。また、ことばを紹介する際、拍手の代わりに「いいね」というかけ声をかけるのもポイント。相手に認められたという喜びと安心感、活動の場の一体感の醸成につながるという。
設立のきっかけになったのは東日本大震災。渡邉氏は、12年1月から宮城県の沿岸部各地の仮設住宅集会所や学校を訪ね、笑顔の消えた子どもたちを支援する活動に注力した。その中で、ことばによって励まされ、気持ちが温かくなる体験を通じて、その大切さを知ることができる 〝ことばの貯金箱〟を考案。さらに「ことばのギフトカード」を届けるというスタイルを確立し、子どもとお年寄りの交流や少年院での情操教育などさまざまな場面で活用され、より幅広い世代にことばの大切さやことばを介した交流の楽しさを伝える内容へ進化し、発展を続けている。
子どもたちにことばの大切さを伝える活動を長年にわたり続けてきた実績はもちろん、「チャリーン!」「いいね」といったユニークなかけ声が、子どもの意欲を引き出す重要な要素となっていることに着目。ことばが自分や相手を温かく励まし、前へ進む原動力になることを子どもたちが経験して知る貴重な機会を与え、ことばの良い面を十分に味わい、体験できる活動である点が高く評価され、今回の受賞となった。
ことばを貯める楽しさを小学生たちと一緒に共有
プロジェクトが始動してから11年以上がたち、その活動の場は今や宮城県内だけでなく全国にまで及んでいる。これまで小中学校の出前授業をはじめ、親子で参加できるワークショプやファシリテーターの養成講座などを多数実施。活動の拠点を置く仙台市の小学校では23年から3年生3クラスでことばの貯金箱に取り組み、いつも渡邉氏を待ち望む子どもたちの熱烈な歓迎とともに授業が始まる。3、4人でグループをつくり、「ちょきちょきタイム」「ぺたぺたタイム」「しょうかいタイム」と題した3回の授業を行い、家族や親しい人へ贈るギフトカードを作成。宛名と住所を書き、切手を貼れば、ポストに投函して郵便で遠方に送ることもできる。小学3年生では習わない難解な漢字や専門用語を切り取る子どももいるが、完成したカードの文章は意外にも破綻せず、きちんと成立しているのが印象的だった。母親に向けて「いつも見守ってくれてありがとう」とつづったギフトカードを完成させた女子児童は、「このカードを作ったおかげで、あらためてお母さんに感謝の気持ちを伝えられそうです。新聞からことばを集めるのがちょっと難しかったけど、贈る相手のことを思いながら作業したので、楽しく取り組むことができました」と満足そうな笑顔。担任の先生も「この活動に参加した児童から、クラスの思いやりの心がレベルアップしたねと言われ、驚きました。乱暴なことばを使う子どもが減り、相手の気持ちを考えてことばを選ぶシーンをよく見かけるようになった気がします」と、確かな手応えを実感している。渡邉氏は「ことばの貯金箱の活動理念を受け取った先生たちが、これから新たな可能性を生み出してくれることに期待しています」とエールを送った。
未来の担い手を増やし全国各地で活動を展開
学校や公共施設などとは別に、仙台市泉区寺岡に拠点施設「ことばの貯金箱ハウス」も開設しており、ワークショップや指導者の育成を目的とした研修会を定期的に行っている。これまでプロジェクトの意義や活動手法、成果の発信に努めてきたという渡邉氏。活動に参加した母親から弟子にしてほしいと懇願されたこともあったという。「地道な種まき活動を行なってきたおかげで、途絶えることなく活動が続けられてきました。ことばの貯金箱は現在、北海道から沖縄までの各地でたくさんの指導者たちが実践してくださっています。だから私の中では、活動の主旨を理解し、愛し、未来に向けて育んでいこうという熱意を持って携わっているすべての皆さんが仲間だと思っています。すでにこのプロジェクトは私の手から離れ、一人歩きを始めつつあるとも感じていますので、今後、どのような進化の形が見られるか楽しみにしています」と語る。
長年の活動を通して、なおも発見や気づきも多いという。その最たる例が前述した小学校で実際に使用しているギフトカードの新たな展開だ。「当初はただ真っ白な台紙を使用していたんですが、大切な人にことばを贈るギフトカードというスタイルがこのプロジェクトの理念に合致しており、相手との向き合いを図る上でベストな機会づくりに役立つことが分かりました。全国隅々まで、このプロジェクトの活動を届けたい気持ちはあるんですが、そう簡単に現地を訪ねることができません。でも今や、活動の取り組み方を熟知する指導者が増えていますので、こちらでギフトカードを用意することができれば、活動の目的や意図を伝えやすくなります。博報賞の副賞をいただいたことで、ギフトカードをたくさん印刷することができました。早速、群馬県の赤城少年院にもお送りして活用してもらっています」と、受賞の喜びと感謝も伝えてくれた。
(企画・制作/河北新報社営業局 河北新報2025年3月14日 掲載分より転載)
※記載の所属・役職は、受賞当時のものです。
博報賞とは
「博報賞」は、児童教育現場の活性化と支援を目的に、財団創立とともにつくられました。日々教育現場で尽力されている学校・団体・教育実践者の「波及効果が期待できる草の根的な活動と貢献」を顕彰しています。また、その成果の共有、地道な活動の継続と拡大の支援も行っています。
※活動領域:国語教育/日本語教育/特別支援教育/日本文化・ふるさと共創教育/国際文化・多文化共生教育 など
現在、第56回「博報賞」の応募を受付中です!(応募受付期間:2025年4月1日~6月25日 ※財団必着)
詳細は博報賞のページをご覧ください。
*博報賞に関するお問い合わせ先
hakuhoushou@hakuhodo.co.jp (博報賞担当宛)