Vol.94 |
2023/04/17 |
自問自答のコトダマ
10年近く、小中学生の作文指導や大学生のレポートの
採点、作文コンクールの審査員などをやっています。
読んだ子どもたちの文章の数は、軽く1万を超えます。
これは個人的な感想ですが、文章そのものは、
以前より向上しているように感じています。
論理的だし、要点もよくわかる。ほろっと泣かせる
シーンもあるし、構成もしっかりしている。
しかし、なぜか心が動かない。
評価基準はクリアしているのに、今ひとつ
推す気になれない。
そんな作文が多いのも事実です。
なぜ、心に響いてこないのか。
色々と考え巡らした結果、結局は読書量が少ない
のではないか、というのが私の推察です。
作文を書くコツやテクニックに関しては
子ども向けにも多くの本が出版されている。
ネットをひらけば、
「こういう順番に書けばいいんだよ」
と優しく教えられていて、解答例まで
掲載されている。
作文を書くコツを学ぶ機会は以前より
ずっと増えたのではないでしょうか。
だから、多くの子が破綻のない、模範解答に
近い作文を書くことができます。
しかし、そこ止まり。論理や構成の枠組みは
しっかりできているのですが、そこに流す
自分の思いや主張がない。
この思いや主張を育む近道が読書なのです。
例えば、物語を読む。すると脳内に
「あぁ!危ない!殺されるぞ!」
「今しかチャンスはないぞ!告白しろよ!」
などの言葉が響いてきます。
この声を心理学では「インナースピーチ」
(頭の中で響かせる声)と言います。
本を読むと、主人公に共感したり、論理が
飲み込めなかったりして、「わかるなぁ」
「チンプンカンプンだ!」といった声が
聞こえてくる。
そこで、「なぜ共感したのだろう」
「どこが難しいだろう」と頭の中で
響く声に質問を投げかけてみる。
いわゆる自問自答です。
読書をし、脳内に感想や意見や反感を
響かせる。これに対して、
「では、どうすればいいか」
「どんな行動をすればいいか」
と自分に問い、自分なりの答えを出す。
これを繰り返すことによって、
読解力、考察力、言語化力、表現力が
ついてくる。
それが、作文や論文の中に滲みでて
くるのです。
簡単に言えば、読書量の多い子どもの
書く作文には、自問自答した形跡がある。
借りもののフレームやお手軽なコツや
ノウハウでまとめたそつがない文章とは
決定的に違う自分とのせめぎ合いのような
ものが見て取れるのです。
もちろん、人と会話をしても自問自答
することはあるでしょう。しかし、一人黙って
本に目を落とし、古今東西の活字から
湧き上がるインナースピーチと対峙する力には
敵わないのではないでしょうか。
読書を通じて「自問自答のコトダマ」を
自分のものにしていく。
AIが、簡単に破綻のない上手な文章を書く時代。
思いれのない文章は、早晩、AIに淘汰されるでしょう。
だからこそ、しっかりと読書をすることが
これまで以上に大事になる。
新学期を迎えた皆さんには、
これまで以上に読書習慣を身につけることを
おすすめします。