コラム

Vol.110

by ひきたよしあき 2024.08.15

「赤丸」のコトダマ

私の名前を漢字で書くと、

「蟇田吉昭」

となります。

「蟇」の字、見たことありますか。
多分、ほとんどの人が見たことないと 思います。

この字は「ひきがえる」の意味です。
ある大火事のときに、池のかえるが口から 水を出して火を消した。そんな伝説がある 岡山県のある地方にだけ見られる苗字だそうです。

「蟇」の字を見せると多くの人が

「うあぁ、難しい!」
「覚えられない」

と言います。
子どもたちに教えようとすると

「無理!」

と叫びます。

しかし、本当にそんなに難しいでしょうか。

よく見てください。
草冠に「日」を書いて、その下に「大」と書く。
ここまでは、多分、見たことあると思います。

暮、幕、墓・・・

なんて字がありますよね。
すると、覚える部分は、一番下の 「虫」の部分だけです。

私は、子どもたちに、

「難しい!と思う前に、どこが 難しいのかを考えてみよう。そして その難しい部分を赤い○で囲ってみよう」

と教えます。
すると、みんなが、「虫」の部分に○を する。覚えるのはここだけか、と思うと、 「難しいの壁」は簡単に乗り越えることが できるのです。

次に、「薔薇」という字を見てもらう。
そして「薔」と「薇」を眺めて、自分が 難しいと思うところに○をつけてもらいます。

すると、みんな面白いように「薔薇」という 字が書けるようになります。

英語でも同じこと。

TuesdayとThursday

を間違える子に、

「2つの単語で一番間違えやすいアルファベットを 赤丸で囲んでみよう」

と言います。
子どもたちは、Thursdayの「h」を囲んだり 「r」にマルをしたりします。答えはありません。
自分が間違えやすいと思うところで構いません。

こうして間違いやすいところを自発的に探して いくと、不思議なくらい難しい気持ちが遠のいて、 しっかり記憶できるようになるのです。

難しい箇所一点を赤丸で囲む。
2つも3つも囲んではいけません。
一番難しいところを考えることで、分析力が つくのです。
私は、この方法を教わって以来、記憶する 力がぐんと伸びました。今でも、自分がわからない 箇所ひとつに赤丸をつけています。

「赤丸のコトダマ」を吹き込むことで、いろいろな ものがわかりやすくなる。記憶しやすくなるのです。

私たちは、難しい漢字や単語、長い文章を見ると すぐに「難しい!」と反応し、学ぶことを避けようと します。勉強のできる、できないの多くは、やる前に 感情で決めてしまうから。「難しい」と感じたものは より難しくなってしまうのです。「赤丸をつけて、 難しさの芯をつかまえたら、意外に簡単かも」 と思えることが大事。こうした気持ちのコントロール で、すぐに諦めない胆力がついてくるのです。

ある時、私の苗字をテーマにした授業をしました。
子どもたちからは「蟇の字が書けるようになった!」 「暗記の仕方がわかった」など、嬉しい授業の感想が 戻ってきました。

とても嬉しかった。
しかし、その中のひとつを見て、私は吹き出しました。
私の名前を「かえるだ先生」と書いていたからです。
「ひきがえる」の「ひき」ではなく「かえる」の方を 覚えてしまったようです。それでも「蟇」の字が書ける ようになったから、まぁ、いいか。
「赤丸のコトダマ」、活用してくださいね。

  • ひきたよしあき プロフィール

    作家・スピーチライター
    大阪芸術大学客員教授
    企業、行政、各種団体から全国の小中学校で「言葉」に関する研修、講義を行う。
    「5日間で言葉が『思いつかない』『まとまらない』『伝わらない』がなくなる本」(大和出版)、「人を追いつめる話し方、心をラクにする話し方」(日経BP)など著書多数。