コラム

Vol.08

by ひきたよしあき 2018.07.17

懺悔するコトダマ

その手紙が書かれたのは、
昨年の12月14日。
原稿用紙のはじめには、

「今日の反省」

と書いてありました。

「今日、ひきた先生にほう告したい
ことがあります」

ではじめられた文章は、箇条書き。

少女には、どうしても欲しいものが
ありました。
がまんできずに友だちのものを盗んで
しまいました。
その顛末が、克明に書かれていたのです。

友だちのものを盗んだ。
友はそれを知っていて、

「返して」

と言ってきた。

返そうか、黙っていようか。
どうすればいいか悩んだ末に
少女は学校のカウンセラーに行く。

7つに及ぶ箇条書きは、
友に謝り、先生に報告し、
母に盗みを告げるまでの
行動と心情が記されています。
自己分析あり、相手への洞察あり。
親や先生の反応も映像が浮かぶほどの
表現力に彩られていました。

後半は、この一件を通して
彼女が学んだことが書かれています。

1 うそはいつか必ずばれるので
  ついてはいけない。

2 もうきっと友だちが信用して
  くれないので、今まで以上に
  がんばろうと思っている。

3 もし、もう一度盗みたくなったら
  このことを思い出してがまんする。

そして最後は、

「私はこれからどうすれば
いいでしょうか。ひきた先生は
きっと前向きですよね。
お返事待ってます」

で締めくくられていました。

私は二枚の原稿用紙を読み終えて、
不覚にも泣きました。

これを私に書いた少女の心情を思い、
鉛筆に力をこめて、一字一字と
書き進められた言葉に打たれた。
さらには、こうした手紙を書く
相手に自分を選んでくれたことに
感謝の涙がでたのです。

自分の犯した罪を正直に告白する。
汚れて、しぼんでいたコトダマが、
息を吹き返し、再生していく様を
私はこの手紙から感じとりました。

随分と推敲を繰り返し、こんな
内容の返事を書きました。

「あなたは行動を起こすことで、
人に対する「正直」
罪を告白する「勇気」
失うと取り戻すのがむずかしい「信頼」の重さの
3つを身につけることができたのです。
忘れないように、この言葉を机の前に
貼っておこうね」

周りをみれば、
不誠実で、逃げの一手で、
信頼よりも自己利益を優先する大人ばかり。
反面教師以外には使いものに
ならない大人ばかりです。
子どもに説明できないどころか、
恥ずかしくて顔も見せられない人が
テレビに次々と登場します。

こんな時代だからこそ、
小さな少女の手紙の文字が、
まぶしくてしかたなかった。

「日本もまだまだ捨てたものじゃない」

とさえ思えたのでした。

私はこれをクリアファイルに入れて
持ち歩いています。
時折読み返し、懺悔のコトダマに
叱咤と激励をいただいています。

その後、少女は元気になりました。
自分で編集した小さな新聞や組み立てないと内容が
読めないジグゾーパズルの手紙を
送ってきたりして、私を楽しませて
くれています。

強くなりました。
大きくも、優しくもなりました。

  • ひきたよしあき プロフィール

    作家・スピーチライター
    大阪芸術大学客員教授
    企業、行政、各種団体から全国の小中学校で「言葉」に関する研修、講義を行う。
    「5日間で言葉が『思いつかない』『まとまらない』『伝わらない』がなくなる本」(大和出版)、「人を追いつめる話し方、心をラクにする話し方」(日経BP)など著書多数。