コラム

Vol.07

by ひきたよしあき 2018.07.03

コトダマの受け止め方

「ひきたさんは、疲れてくると、
意地悪なコラムを書く」

とある人に言われて反省しました。
毎朝欠かさずコラムを書けば、
当然、体調がでます。
イライラや不安も透けて見えます。
熱心な読者だから、こんな言葉を
かけてくれるのでしょう。
ありがたいことです。

対処法として、
「置かれた場所で咲きなさい」
(幻冬社)などを書かれた
シスター渡辺和子の本を読むように
しています。
いつもベッドサイドに著作を並べて
心身が疲れたときは手にとるように
しています。

例えば、「現代の忘れ物」(日本看護協会出版会)
の中に、こんなお話があります。

「の」の返事。

相手が「暑かった」と言ったとき、

「夏だから暑いのは当たり前でしょう」

とは言わずに、

「暑かったの」

相手の言葉に「の」をつけて返す。
「どうして?」と相手に尋ねたり、
自分の意見を言う前に、相手の
言葉を一度全部受け止めるわけです。

時おり、親子ゲンカに遭遇します。
声高に、早口で、母と子が
口ゲンカを始めます。

見ていると、相手が言葉を
発したとたん、バットで打ち返している。
ミットで受け止めることをしません。

互いが互いの言葉をバットで
打ち返しているうちに、
ひどいときはバットで殴り合っている
ようになる。
これは互いに疲れるばかりです。

子どものコトダマが飛んできたときに
どうするか。
たとえそれが悪送球でもへなちょこ球でも
一度はミットで受け止める。
バットをおいて、両手にミットを
はめて受け止める。
その球を自分の体温と体重を乗せて
相手の心に投げ返すことが大切です。

この「ミット」にあたる言葉を、
シスター渡辺和子は、「の」と表し、
オウム返しに返事をする効用を
説かれています。

こういうエッセイを就寝直後に読み、
ぐっすり眠ります。
翌朝のコラムは、意地悪な要素が
少ないように思われます。

最近流れるニュースを見ていると、
日本中、否、世界の多くの人が
バットで打ち返しているようです。
一度、ミットで受け止めることなく、

「あなたは嘘つきだ」
「あなたは隠している」
「あなたは間違っている」

と、カーンと打ち返す。

こんなやりとりばかりを見ていたら
子どももミットよりもバットを
好んで持つようになってしまう。
受け止めてなんかいたら負けてしまうと
考えるようになってしまうのでは
ないでしょうか。

違いますよね。

コトダマに「の」をつけて、
できれば笑顔で投げ返す。

これこそが、正しいコトダマの
受け取り方でしょう。
ぜひ試してみてくださいね。

※ 参考資料
「現代の忘れ物」(日本看護協会出版)
渡辺和子著
2015年刊,p.76-78
  • ひきたよしあき プロフィール

    作家・スピーチライター
    大阪芸術大学客員教授
    企業、行政、各種団体から全国の小中学校で「言葉」に関する研修、講義を行う。
    「5日間で言葉が『思いつかない』『まとまらない』『伝わらない』がなくなる本」(大和出版)、「人を追いつめる話し方、心をラクにする話し方」(日経BP)など著書多数。