コラム

Vol.99

by ひきたよしあき 2023.09.15

偏見のコトダマ

高校に入って、初めてメガネをかけるようになりました。
中学の頃から、近視は進んでいました。黒板の字が読めない
ときもありました。
それでもメガネをかけなかったのは、「メガネが恥ずかしい」と
いう思い込みが強くあったからです。

当時、どんなマンガを読んでも「メガネをかけている男」は、本ばかり
読んでいて、頭はいいけれど弱くて意気地がないイメージがありました。
アイドルでもスポーツ選手でも、人気のある人は誰もメガネをかけてない。
メガネは似合わないし、「メガネ」というあだ名をつけられるのが嫌だと
真剣に考えていたのです。

受験があったので、中学の頃からメガネを作ってはいたけれど、
恥ずかしくて学校ではかけられなかったのです。

だから、中学の友だちのいない高校で、はじめてメガネデビューしたのです。

当たり前のことですが、私のメガネ姿を笑う人はいませんでした。クラスの
多くが、授業中にメガネをかけている。そんなことを気にしているのは、
私だけだったのです。

その上、同じ学年の女性から、
「メガネをかけている顔の方が好き」
と言われたのです。はじめは、からかわれているのかと思いました。
しかし、その頃は、メガネをかけている顔の方が普通で、裸眼の顔の
方がめずらしくなっていました。その顔を「好き」と言われて、
大いに自信を得たものです。

メガネは、カッコ悪い。

私は、こう思い込んでいる「偏見のメガネ」をかけていたのです。
自分だけで、そう信じていたのです。
自分にとっては一大事の「メガネをかける」行為は、他の人に
とってはどうでもいいこと。むしろ、メガネをかけず、はっきりと
ものを見るために、眉間にシワを寄せている方が、よほど人相が悪いと
思われていたのです。

今でも、子どもたちから「メガネをかけたくない」という相談をよく
うけます。「からかわれるのが怖い」「メガネをかけた顔がきらい」と
過去の私と変わらないような理由ですが、心配することはない、
メガネをかけて、にっこりすれば、人は「知的」で「おだやかな人」だと 判断してくれます。
自分が思っているよりも、メガネの顔はずっと好印象なんですよ。

「メガネ」同様に、私たちは自分に対してさまざまな偏見をもっています。
「かわいい服は似合わない」「こんな靴は、カッコ悪い」「自分は、きれいじゃない」など決めつけています。
しかし、こうしたものの大半は「偏見メガネ」をかけて、悪い方にばかり
考えてしまう癖なんだと思う。

少し自分から距離をとって、冷静に、客観的に眺めてみれば、自分が悪く
思っているほど、世間の評価は低くない。「偏見のコトダマ」は、自分の
思い込みの場合が多いことを覚えておいてほしいのです。

メガネのあなたは、あなたが思う以上に魅力的ですよ。

  • ひきたよしあき プロフィール

    作家・スピーチライター
    大阪芸術大学客員教授
    企業、行政、各種団体から全国の小中学校で「言葉」に関する研修、講義を行う。
    「5日間で言葉が『思いつかない』『まとまらない』『伝わらない』がなくなる本」(大和出版)、「人を追いつめる話し方、心をラクにする話し方」(日経BP)など著書多数。