コラム

Vol.23

by ひきたよしあき 2019.02.25

決意のコトダマ

この季節になると、
中学を受験した子どもたちから
嬉しい知らせが届きます。

お母様がメールでメッセージを
くださるケースもありますが、
多いのは手紙です。

大半は初めてのお便りではなく、
何度か文通している子どもからのもの。

長い子は、2~3年も長い間手紙の
やりとりのある子もいます。

小4あたりの子は、大抵、
お母さんの手紙が同封されています。
お母さんが子どもの手紙を読んで
その内容を捕捉してきます。

ところが小6になると、

「子どもが手紙を見せてくれません」

とお母さんから泣きが入る。

子どもは親に読まれないように、
しっかり糊で封印してしまいます。
お母さんは仕方なく、大きめの封筒に
子どもの手紙と自分の手紙を入れて
送ってきます。
開けると、ふたつの封書が入っている。

これが小6からくる手紙のパターンです。

先日手にした封筒もこれでした。
開けると、親と娘のふたつの封書が
でてきました。

お母さんの手紙を読むと、
合格の喜びと同時に、志望校を
選んだ経緯、今後の心配などが
書かれています。

「11月に志望校のランクを下げました。
当初はショックだったみたいで、しばらく
勉強が手につかないようでした。
今でも、あまり嬉しくないようで、
入学してからが心配です」

だから、これからも力になってほしいと
いう内容です。

ところが娘の手紙を読むと、

「11月に志望校を変えるように塾の
先生に言われました。ショックでしたが、
その中学に行ってみると、運動場でみんな
楽しそうに部活をやっていて、
『よし、ここに合格するようにがんばろう!』
と思いました。
それからは、「落ちたらどうしよう」ではなく、
「あそこにいきたい」と思って勉強ができました」

と自分の心情を切々と書いています。
最後には、

「小説家になりたい」

という夢まで書いていました。

ふたつの手紙を読み比べ、
子どもがお母さんに読ませたくない気持ちが
なんとなくわかりました。
お母さんが考えている以上に、子どもは
成長し、人生のビジョンを持ち始めている。

もう、「お母さん」から独り立ちした
気持ちをもっていることを、娘ながらに
気遣っているかのようにも見えたのです。

親は案外、子どもの発する「決意のコトダマ」
を見逃しがちです。
他人には言えても、親には恥ずかしくて言えない。
それが決意なのではないでしょうか。

総じて親が心配する以上に、
子どもはしっかりと育っています。

「この子はまだまだ子どもだから」
「私がいないと何もできない」

というのは、親側の都合のいい解釈で
あることも、頭に入れておいてください。

もうすぐ卒業。
子どもたちは、「小学生」を卒業するのではなく、
「子どもの時代」から卒業していきます。

その姿に、心よりの拍手を送れる
親でいてくださいね。

  • ひきたよしあき プロフィール

    作家・スピーチライター
    大阪芸術大学客員教授
    企業、行政、各種団体から全国の小中学校で「言葉」に関する研修、講義を行う。
    「5日間で言葉が『思いつかない』『まとまらない』『伝わらない』がなくなる本」(大和出版)、「人を追いつめる話し方、心をラクにする話し方」(日経BP)など著書多数。