Research reporting Sessions

第13回最終研究報告会(2019年8月)

2019年8月23日(金)9:30~
品川プリンスホテル

去る8月23日(金)、第13回「博報日本研究フェローシップ」最終報告会を開催しました。
当日は、朝から小雨模様でしたが、東京・品川の会場には招聘研究者(長期/短期・後期)と受入担当教員、審査委員、受入機関の担当者、財団関係者ら50名余が集まり、プログラムに添って研究報告や質疑応答等が行われました。各国の招聘研究者の方々が1年間または6か月間の滞在研究を行った研究成果を共有するとともに、今後の日本研究の発展を考える貴重な機会となりました。

 

研究報告

 

 今回、最終研究報告を行ったのは、12名の長期招聘研究者と3名の短期・後期招聘研究者の、合計15名です。

「日本語・日本語教育」分野の研究者からは、日本に滞在する各国の留学生や社会人へのインタビュー調査等を基に、それぞれの母国でのより実践的な日本語教育につながる研究成果が報告されました。「日本文学・日本文化」分野の研究者からは、日本に滞在しているからこそ触れられる研究資料の調査状況や、日本各地のフィールドワークで得られた情報とそれに基づく考察等の発表がありました。2019年2月に行った中間報告の内容をさらに深化・発展させた研究報告も多く、それぞれに充実した研究生活を送られたことが伝わってくる内容でした。

 各研究者の研究報告(1人15分)の後には、受入担当教員による解説(5分)と質疑応答(5分)を行いました。質疑応答では、研究報告の疑問や課題の指摘とともに、今後の研究の視野を広げるアドバイスなどもあり、限られた時間の中で活発な議論が展開されました。

 

 

(以下敬称略・報告順)

 

1.アラム モハメッド アンサルル  <バングラデシュ>

ダッカ大学 現代言語研究所 准教授

在日バングラデシュ人が直面する問題に焦点を当てた調査研究

– バングラデシュの日本語学習者のためのケース教材の作成を目指して –

 

2. オズベッキ アイドゥン  <トルコ>

チャナッカレ・オンセキズ・マルト大学

教育学部 日本語教育学科 准教授 学科長 言語応用研究センター長

日本語とトルコ語におけるテンス・アスペクトの諸相及び証拠性・ミラティビティ現象の対照研究

 

3. 羅 曉勤  <台湾>

銘傳大学 応用日本語学科 准教授

海外における日本語ビジネス人材育成へのケースメソッド教授法の導入

– 台日両域を調査対象としたケース教材の開発とその応用を中心に –

 

4. 劉 佳琦  <中国>

復旦大学 外国語言文学学院 日語語言文学系

准教授、日語語言文学系副主任

中国語母語話者における日本語音声習得の実証的研究 – 知覚と生成の相関性を中心に

 

5. スタイニンガー ブライアン ロバート  <アメリカ>

プリンストン大学 助教授

鎌倉・南北朝期の書物的ネットワーク ― 写本・版本の流通と相互関係

 

6. 大森 恭子 <アメリカ>

ハミルトン大学 准教授、東亜言語文学部

声のテクノロジー:近現代日本における無声映画 弁士説明 ラジオ・ストーリーテリング

 

7. ブレッカー ウィリアム パック  <アメリカ>

ワシントン州立大学 日本史 准教授

自律性と青少年:明治・大正社会における個性と国民形成

 

8. アダル ラジャ  <アメリカ>

ピッツバーグ大学 歴史学部 日本史助教授

アジアにおけるタイプライターの世紀:権威、美学、そして書の機械化

 

9. ケリヤン マヤ ベドロス  <ブルガリア>

ブルガリア科学アカデミー社会・知識研究所 教授

日本とブルガリアの地域社会における祭礼比較を通して

 

10. シェフツォバ ガリーナ  <ウクライナ>

キエフ国立建設・建築大学 建築学部、建築基礎とデザイン学科 教授

日本の歴史的なまちの再開発における経験:ウクライナでの活用

 

11. 都 基弘  <韓国>

韓南大学校 非常勤講師

室町時代の食文化における匙の基礎的研究 – 有職故実・料理の記録を中心に –

 

12. 唐 権  <中国>

華東師範大学 外国語学院 日本語学科 助教授

文化文政期における来舶清人と日本漢学者との交流に関する研究

– 蘇州・長崎・京都・江戸文人ネットワークの誕生と展開 –

 

13. ブライトウェル エリン リー  <アメリカ>

ミシガン大学 アジア言語文化学部 日本古典文学・助教授

中世の「鏡物」と歴史叙述:日本の長い13 世紀における末世と神国思想

 

14. 李 銘敬  <中国>

中国人民大学 外国語学院 日本言語文学部 教授

日本仏教文芸と唐宋文献との交渉関係に関する研究

 

15. 山本 直樹  <アメリカ>

カリフォルニア大学 サンタバーバラ校 映画・メディア学科 助教授

京都学派と日本の視聴覚メディア理論史との相関関係

 

 

 

審査委員による講評

 

 15名の研究者のすべての研究報告を終えた後、4 人の審査委員に講評をいただきました。  

 まず井上優審査委員長からは、滞在研究をねぎらう言葉に続いて、次のようなお話がありました。「全体に、それぞれの研究者が滞在中にたくさんのことを調べられたという印象がある。これをぜひ今後のアウトプットに活かしてください。また2月の中間報告での指摘を活かして研究を進められた例が多く、とてもありがたく思っています。今回は滞在研究で日本の研究者と交流され、今後も交流は続いていくと思いますが、それに加えて、皆さんの母国で同じ分野の日本語を知らない研究者とも、ぜひ交流をしてください。そして現地の中での日本語や日本文化、日本研究の地位が向上するように、それぞれの地域で活動をしていただけたらと思います」。

 続いて、審査委員からそれぞれ講評がありました。

「一日とても楽しかったです。私は専門が日本文化・日本文学で日本語研究のことはわからないこともありますが、今回は具体的な日本語教科書についての報告などがあり、面白かったです。また皆さんが中間報告よりも深く、広く研究を進められたことがわかり、感動しました。この成果を活かして今後も活躍してください」(中山玲子審査委員)

「報告をされた研究者の中で、当初の予定と違ったという方が3~4人いましたが、私はそれも日本に来た研究成果だと思います。日本に来て、実際のものに触れて考えが触発されるというのは、現地に来なければ起こらないことです。そういう方がいらしたことも良かったと思います」(古川隆久審査委員)

「皆さんが1年間または半年間、充実した時間を過ごされたことがわかりました。今回は招聘研究者15人のうち4 人が日本語・日本語教育でしたが、そのうち2件はケース教材という新しい形の日本語教育のトレンドをふまえたもので、本フェローシップの目的に叶う研究だと思います。また、日本文化の研究報告で『日本研究の国際化』という話題がありましたが、その点について今後もっと議論を深めていければと思います」(田中ゆかり審査委員)

 

 

研究慰労・交流会

 

 15人すべての研究報告を終えた後は、会場を移して研究慰労・交流会を行いました。井上審査委員長の乾杯の音頭を皮切りに、招聘研究者の皆さんはビュッフェ形式の食べ物、飲み物を手にしながら、審査委員や受入担当教員と、あるいは研究者同士で、交流・情報交換をされていました。最後に、第13回の招聘研究者を代表して羅 曉勤先生にご挨拶の言葉をいただき、和やかな雰囲気の中で終了しました。

 

1年間または6か月間の滞在研究を終えた招聘研究者の方々の感想をご紹介します。

 

「私は専門が日本文化の歴史で、これまで京都を訪れたことは何度もありました。ただ京都に住んだことはありませんでしたので、今回、半年間京都に住んで研究ができて良かったです。京都は日本のもとの都ですし、まちを歩いていても古い伝統的な町屋が残っていたりと、日本の歴史に触れられるところがたくさんあります。そういう意味では、日本文化の歴史の研究者にとってやはり京都は特別なところです。半年間の滞在研究で、貴重な経験をすることができました」(ブレッカー先生)

 

「1年間でいろいろなところに行き、住民のインタビューをしたり、地域の祭事を観察したりと忙しかったです。京都の松ヶ崎では8月16日に送り火を焚きますが、15日も薪の用意などの大切な準備があります。今年はちょうどこのときに台風10号が来て、送り火や祭事ができるのか、とても心配しました。台風が過ぎた16日の夜に送り火が灯され、その後に新・旧住民や外部の人も混ざって皆で『さし踊』を踊りましたが、これは旧住民と新住民が一体となって地域文化をつなぐという、素晴らしい経験でした」(ケリヤン先生)

 

「研究面では、日本にいる台湾の大学の卒業生たちと触れ合うことで、日本での仕事や生活の現状を知ることができ、それによって自分の研究も深まりました。研究以外では、ケースメソッド教授法や幼児日本語教師の資格取得、OPI日本語試験官資格更新などにも取り組めました。今は日本の保育士資格取得にも挑戦しています。研究だけでなく、こうした勉強ができたのは滞在研究だからこそで、博報財団にはとても感謝しています。この一年で得たものを台湾の教師研修などにも活用したいと思いますし、台湾の学会等でも博報財団のことを広めていきたいです」(羅先生)

 

「今回、初めて京都に1年間住んでの滞在研究でしたが、中世の日本文化の研究者としては、京都に住んでいると研究と日常生活が重なっていると感じます。たとえば、ある鏡物を読んでいて『これはここのことだ』と気づいて、実際にそのお寺や神社などに行くことができます。今まで書物の資料の中でしか触れられなかったものに、自分が実際に行って触れられるというのは印象深いことでした。研究以外では、友達と一緒に大阪の天神祭に参加しましたが、とても面白かったですね」(ブライトウェル先生)

 

「今回の最大の収穫は、日本に来なければ出会えなかった資料を調べることができ、研究者として何年間分もの研究テーマをもらったことです。この1年で長崎には7~8回通いましたし、東京にも何度も足を運びました。日本に眠っていた貴重な資料にたどり着くには、持ち主の方に電話をしたり、手紙を書いたり、さらに地元の重鎮に紹介してもらうために交渉をしたりと、いろいろなハードルがありますが、そういう研究を進める中で親切な日本人にもたくさん出会うことができました。今回の滞在研究の成果をどうまとめていくかが、これからの課題です」(唐先生)

 

「この1年、想像した以上に忙しかったですが、その分多くの収穫も得られました。研究面では、私の専門である日本語の初級学習者の発音についての論文などの、執筆活動に専念することができました。教育面では、日本にある新しい日本語教材や日本語学習のアイデアを収集しました。9月に中国に戻った後は、大学1年生の日本語授業を担当するので、今回の成果をぜひ活かしたいと思います。学生たちも私が日本に1年間滞在しているのを知っていて、日本のオリンピックに向けた動きなど、新しい話を聞くのを楽しみにしてくれています」(劉先生)

 

「今回の私の研究は、このフェローシップでなければ成り立たなかったと思います。『大饗記』などの資料一つにあたるにも、早稲田大学の図書館で紹介状を用意してもらい、慶應義塾大学図書館で閲覧するなど、入手するまでに数週間かかることもありました。この1年間は匙の用例を集めるために、ひたすらたくさんの資料に目を通すことに集中しました。帰国してからは学生に日本語を教えつつ、今回の滞在研究でかなり充実した資料が集まってきたので、これを論文にしてアウトプットしていきたいと思います」(都先生)

 

 

Research reporting Sessions

研究報告会レポート

中間報告・研究終了後の「研究報告会」や、来日直後に行われる「交流会」の模様をレポートしました。