Vol.34 |
2019.08.05 |
評価のコトダマ
明治大学で「広告の現在と言葉」
という講義を担当して5年になります。
半期で13回。100分の講義。
学生の成績は、毎回の講義の理解度を
チェックする「リアクションペーパー」
と最後に提出してもらう3000字の
レポート。それに出席状況を加えて
決めていきます。
このレポートの採点に毎年苦しめられます。
採点にかかる10日ほどの時間は、
毎年、胃がチクチク痛みます。
今の学生は、私たちの頃とは比べものに
ならないくらい真面目です。
コピペでお茶を濁すような学生も皆無。
3000字では語りつくせないと
言わんばかりの勢いのあるレポートが
並びます。
担当した初年度は、出席番号の若い順から
読み進め、点数をつけていました。
しかし、これは失敗でした。
読み始めてからしばらくすると、
始めに高得点を与えた学生よりも素晴らしい
レポートに出くわします。
「あれ?こっちの方が優秀だぞ」
と思って、読み返す。
比べると、あとからでてきた方が確かに
優秀です。
こうなると、それまでに評価したレポート
全てが不安になります。
「基準がブレてきているんじゃないか」
怖くなってまた一から読み込みます。
疲れてきたり、日にちをまたいだり、
膝をうつような発想力、うなりたくなる
構成力に出会うたび、自分の基準が
揺らぐのです。
学生たちから「先生の資質」を問われて
いるような気がして、眠れない夜が
続きました。
しかし、今は違います。
5年の歳月を経て、自分なりの採点法を
作り上げました。
まず、レポートを受け取った当日に、
ホテルにこもります。
何もない部屋で100人の3000字
レポートをざっと読み込みます。
全体のレベル感をまず掴み、そこから
自分なりの評価基準を書き出していきます。
論理や構成力はもちろんですが、
視点のユニークさや発想力についても
評価のルールを作ります。
今度は家に帰って、その基準を
机の前に張り出して読み込む。
迷っている点数は、「レ点」を入れて再考する
ようにします。
3日ほどかけて読み込み、
1日おいてもう一度チェック。
最後に、私の評価を明治大学の教授に再度
見ていただき、二人で相談していきながら
微調整していきます。
ここまでやらないと
「ブレない基準」
という「評価のコトダマ」を手にいれる
ことはできません。
「よし、これでいい」と思えるまでは
七転八倒の苦しみなのです。
だから、すべてを終えて、
レポートを大学に返却したときの爽快感は
一入。
学生同様に「夏休み」がきたような
開放感にひたることができます。
苦しい作業ではありますが、
これ以上に自分のいい加減さと
評価を下すことの恐ろしさを味わう
機会を私は知りません。
「一番の教育は、教えたものに
教えられることだ」
という箴言を毎年噛みしめています。