コラム

Vol.16

by ひきたよしあき 2018.11.12

入試のコトダマ

先日、お子さんが中学受験に 挑戦しているお母さんと話しをしました。

机の上には志望校の過去問題が3冊。
最近「超難関」のポジションを狙うまでに なってきた有名私立校が並びます。
ずしりと重いその一冊を開き、
国語の問題を見ました。

「え?こんな人の文章を出すの?」

驚きました。
現役の論客です。何冊かベストセラーも
出しています。有名な大学の先生です。
しかし、頭が良すぎるせいなのか、
文章と文章の間に「飛び」があります。
「なぜ次の一文がこうなるのか」が
わからない。
先生の頭の中ではつながっているのでしょうが、
凡人にはその脈絡がわからない。
世間では「悪文」とも噂される人の
文章が堂々と問題になっています。

別の学校を見ました。
また難しい文章です。現代の思想家の一人
ですが、自分でキーワードを創作してしまうので、
それを知らないと読み進めない。
この思想家のファンである私でも苦労する
内容でした。

さすがに名門校で、ただ難しい文章を出題
するだけではない。設問が工夫されていて、
解き方のテクニックさえ知っていれば、
解けるように作られていました。

それにしても長文です。

「読解力のない子にはきついだろうなぁ」

と思いながら「社会」の問題を見ると
また長文がでている。
ひとつの時代について書いたエッセイ
を読んで初めて問題に取りかかれる。
国語でヘトヘトになった脳に、
「これでもか!」
と、長文をぶつけてくる。
「算数」を見ても問題文が非常に長い。
昔のような計算や図形の問題を解けば
いいというものではありませんでした。

ここ数年の傾向ではありますが、
どの教科をとっても、記憶力より
読解力。大量の文章を短い時間で
正確に読む能力が求められています。

「自分でやってみて、こんなに
難しいとは思いませんでした」

と苦笑いするお母さん。

「どうアドバイスすればいいでしょう」
と尋ねられました。

私はこう答えました。

「過去問で出題されている評論家の
本を買ってください。
お母さんもそれを読んでください。
子どもがどれほどのものにチャレンジ
しているかわかります。
すると不用意に『がんばれ!』なんて
言えなくなります。

そして、子どもにもこの本を見せて
あげてください。

『あなたが今挑んでいる学校の問題は、
大人が読んでも難しい文章です。
大学生でも読めない子がたくさんいる
くらいの作家の文章を読んでいます。
だから、できなくてもあたりまえ。
でもね、そこで諦めるのではなく、
難しいからチャレンジするって
カッコいいことなんだよ。
おかあさん、こういう問題に挑戦している
○○は、かっこいいと思ってる』」

その夜、私の話をお母さん
なりにアレンジして息子に伝えた
そうです。

息子はちょっとポッと恥ずかしい顔を
して、勉強部屋に入ったそうです。

そう、入試のコトダマの中心には、
「合格」という言葉ではなく、
「挑戦」が宿っているのです。

合否は時の運。
それよりも、大人顔向けの文章に
果敢に挑戦する自分を誇ってください。

全国の受験生、
カッコいいぞ!

  • ひきたよしあき プロフィール

    作家・スピーチライター
    大阪芸術大学客員教授
    企業、行政、各種団体から全国の小中学校で「言葉」に関する研修、講義を行う。
    「5日間で言葉が『思いつかない』『まとまらない』『伝わらない』がなくなる本」(大和出版)、「人を追いつめる話し方、心をラクにする話し方」(日経BP)など著書多数。