Vol.04 |
2018.05.15 |
コトダマのコピペ
小学校で授業をした後、
子どもたちが感想を書いて
くれることがあります。
鉛筆書きで、黒々と書かれた
元気な文字がはずんでいます。
「今日の授業は、ちっとも眠く
なりませんでした」
「はじめはむずかしいのかなと
思っていたけれど、楽しかったです」
「先生、また来てください」
好意的な感想が並びます。
「忙しい中、無理にでもやって
よかった」
と目頭が熱くなる。
しかし、次の瞬間、
「いや、まてまて。
そんなに甘いもんじゃないんだ・・・」
と自分に冷や水を浴びせるように
しています。
こんな経験がありました。
『ごんぎつね』を題材にした
授業のあと、
「ごんぎつねが、死んでないなんて
目からウロコでした」
「鉄砲から出る炎がお線香のけむりを
しめしているなんて、目からウロコ
でした」
「ごんぎつねが、深く考えることの
できるキツネだったなんて、目から
ウロコでした」
と、『目からウロコ』という言葉を
多くの生徒が書いてきました。
「この言葉を習った直後なのかな」
と思って、専門家に聞いてみると、
「ひきたさん。
きっと違いますよ。先生が、
模範解答として『目からウロコ』を
教えたんでしょう。
子どもたちは、
外部講師のグルメです。
いろんな機会に、外の大人の話を聞く。
その感想や手紙を書かされる。
どう書こうか迷っているときに、
先生が、参考になるような
『よい感想』を読み上げます。
その中に
『目からウロコ』
という言葉があれば、
みんながそれを使う。
『こういう風に書けば、大人が
喜ぶんだな』と知るわけです。
大人の喜ばせどころをコピペ
していく。それは彼らなりの
処世術なんです」
授業だけではありません。
読み聞かせもワークショップにも
グルメになっている。
それを実施する大人を喜ばせる
術に長けているのが今の子どもです。
「可愛げがない」
と言ってしまえばそれまで。
しかし、よく考えてみれば
外から来た人たちに、
波風立たずに気持ちよく帰って
もらう。
「大人を喜ばせるコトダマ」を
たくさん懐に抱えて使い分ける。
昔に比べて今の子どもたちは
これがとっても得意なのです。
私はこうした子どもの文章を
否定はしません。
少しさみしい気もしますが、
「思ったことを正直に書けばいい」
と言ったところで、これだけ
ハイコンテクストになった社会の
影響は、確実に子どもの世界にも
及んでいるのです。
私はむしろ、コピペでもいいから
書くべきだと考えます。
読む大人の側がしっかりしていれば、
『目からウロコ』の正体を
見破ることができる。
彼らに本当の『目からウロコ』を
落とす経験をさせる。
「あぁ、心にない言葉を書いても
通じないんだ」
と感じさせることが、
大人の使命ではないでしょうか。
「大人を喜ばせるコトダマ」が
「自分と相手を喜ばせるコトダマ」に
変わっていく。
そのときを楽しみに、私は教壇に
立っています。