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対談「オープンダイアローグ」に学ぶ 子どもとの対話の持つ可能性」 (1/3)

斎藤環教授(精神科医/筑波大学)× 高橋暁子(元小学校教員/ITジャーナリスト)
2019/07/11 カテゴリ:
対談

フィンランド発の「オープンダイアローグ」という精神療法をご存知でしょうか。ダイアローグとは「対話」という意味であり、オープンダイアローグとは文字通り開かれた対話のこと。従来は薬が必要だった統合失調症の治療に高い効果があることで、注目を集めています。 オープンダイアローグとはどのようなものなのでしょうか。子どもとの対話などにも活用できるのでしょうか。小学生の子どもを持つ母として、オープンダイアローグについて研究し、『オープンダイアローグとは何か』(医学書院)などの著書を持つ筑波大学斎藤環教授に話を聞きました。

「オープンダイアローグ」とは何か

高橋 まず、オープンダイアローグとはどういうものか、わかりやすく教えてください。

斎藤環教授(精神科医/筑波大学)
斎藤 患者や家族から連絡をもらって24時間以内に訪問し、繰り返しの対話を通して症状緩和を目指す療法のことです。単に手法というばかりではなく、実践のためのシステムや思想を指す言葉でもあります。1980年代にフィンランドのケロプダス病院で始まりました。

ミーティングの参加者は、患者、家族、友人、医師、看護師、セラピストなど、患者に関わる全ての人が対象となります。ミーティングは基本的に全員参加で、医療チームでの話し合いもすべて患者の眼の前で行い、患者の同意なしに進めることはありません。

医師の指導を仰ぐなどの上下関係はなく、専門家も家族や友人も同じ立場で発言し、耳を傾けます。可能な限り「開かれた質問(「はい/いいえ」以上の答えが求められる質問)」から対話を始め、治療チームは患者やその他のメンバーの発言すべてに応答しなければなりません。

オープンダイアローグを導入した西ラップランド地方では、統合失調症患者の入院治療期間が平均19日短縮されました。また、通常治療では服薬が必要な患者が、この療法後は35%しか必要としませんでした。さらに2年後の予後調査では、再発がないか軽微なものにとどまっていた患者は82%(通常治療50%)、再発率も24%(同71%)と大きな成果を上げています。

これまで薬を使うことが前提だった統合失調症の治療が、対話だけで解決できるのです。対話全般のあり方を見直す上でも大きな可能性があると思います。

高橋 そのすべてが対話の力なのですね。対話にそこまでの効果があるとは、本当に驚きました。

斎藤 ええ、モノローグ(独り言)ではなくダイアローグ(対話)なところがポイントです。妄想とはモノローグであり、患者をモノローグから抜け出させるのが周囲との対話なのです。

世間一般で対話と思われているものも、実は対話じゃないことがほとんどです。対話とは何かを知るためには、対話ではないものを考えるとよいですね。たとえば、議論や説得、説明は対話ではなく、モノローグとも言うべきものです。議論、説得、説明は、すべて結論ありきですよね。このように、相手にわからせよう、伝えよう、意見を変えてやろうという意図のやりとりは、すべて対話ではないと考えてください。

対話の目的は、対話を続けることそれ自体です。相手の気持が変わる、結論が変わる、選択肢が変わることを目指すのは対話ではありません。治療の成果は、あくまで対話の副産物なのです。

結論を求めるためではなく、支援を必要とする主体がいて、その主体との対話が軸となります。主役は主体であり、周囲はそれに対して感想などを返していきます。そうするうちに、中心にいる患者の症状が消えていくというわけです。

高橋暁子(元小学校教員/ITジャーナリスト)
高橋 オープンダイアローグについて知った時、どのように感じましたか。

斎藤 直感的に「いける」と感じましたね。これまで考えあぐねていたことがすべてつながり、色々なピースが一気にはまった感じです。

たとえばオープンダイアローグには、クライアント(患者)不在のところでクライアントに関することを決めてはいけないとか、治療者だけで話さず必ずクライアントの眼の前で話すというルールがあり、倫理性が一貫しています。クライアントの知る権利を尊重しているわけですね。

また、通常の治療場面のように、医師--患者という権力構造のもとにある二者関係はしばしばハラスメントの温床であり、問題が起きがちですが、オープンダイアローグはチームで治療しますのでこうした問題を回避できます。社会の様々な場面では、無意識のうちにヒエラルキーがあるまま会話を行ってしまうわけですが、そうした階層構造を徹底的に無くすことがオープンダイアローグのまさに根幹となる考え方なんです。

薬はほとんど使わないし、知る権利も尊重しているし、権力関係にも依存しない。これほど倫理的な手法は、治療法に限定しても、ちょっとほかに例がありません。治療上の倫理性が高いほど効果的なのが素晴らしいですね。

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