Vol.101 |
2023.11.15 |
価値観のコトダマ
昔読んだ本に、外国人に漢字を
教える難しさを書いたものがありました。
例えば、「口」という漢字。
眺めているだけでは、ひとつの箱、
1Boxに見えます。
これを「Mouth(=口)だよ」と教えて
あげると、口を開けたときの形に
似ているので、納得してもらえます。
ところが、「日」の説明は難しい。
外国人から見ると、2Boxです。
これを「Sun(=太陽)だよ」と説明
すると、首を傾げられます。
1Box=mouth
2Box=sun
形状のつながりもわからなければ、
意味のつながりもわからない。
太陽と「日」という感じは
あまりにも姿が違いますから。
さて、続いて箱が3つの
3Boxです。
これを「Eye=目」と説明すると、
もうお手上げだ!という顔をされる。
1Box(口)=mouth
2Box(日)=sun
3Box(目)=eye
私たち日本人から見ると、漢字の形状を
箱(Box)で見ている時点で間違いなのですが、
言われて見ると、一理ある。
なるほど漢字を知らない国の人が、
これを習得するのは大変そうです。
当たり前と思っていることが、
見方を変えれば、違ったものに見える。
私自身、アメリカ人に、
「『はな』はどうして、nose(鼻)とflower(花)の
ふたつの意味があるのだ?」
と聞かれて往生したことがあります。
皆さんなら、どう説明しますか?
世界196カ国中、日常的に漢字を使うのは
日本と中国だけ。だから多くの国では
漢字を見たり書いたりしません。
イメージで言えば、私たちがアラビアの文字を
見て、何一つわからないのと同じ気持ちかも
しれません。
私が誰かから学んだり、教えたりするときに、
相手は自分と同じ知識や価値観で動いているとは
思わないことが賢明です。
その人にはその人なりに育ってきた背景や
紡いできた言葉、蓄積してきた価値観がある。
それを無視して、
「これくらい、わかって当然だろう」
と思ってはじめた計画は、大抵の場合頓挫します。
間違いありません。
あるとき、仲間と「ふるさと」について
語り合っていました。
はじめのうちは和気藹々と話していたのですが、
しばらくすると、なんとなくみんなの話が
噛み合わないことに気づきました。
仲間の一人が、
「あのさ、みんながもっている『ふるさと』って
どんなイメージなの?」
と聞いてきました。私もそれが知りたかった。
ある人は、広々と広がる田園風景でした。
またある人は、雪深い街の景色を「ふるさと」と
言っていました。
若い子は、自分が育ったニュータウンのお祭りを
意識していました。
私は、瀬戸内の夕日の砂浜を考えていました。
「ふるさと」という言葉の裏には、様々な
価値観が含まれていたのです。
そこにいた友だち全員が、
「話してみないとわからないもんだねぇ」
と驚いたものです。
私たちは皆、価値観を持っている。
それは自分の育った場所、出会った人、
学んだ教育、言語などによって違うものです。
それは優劣や正誤の問題ではなく、
ただの「相違」です。
その相違、誰の心にもある「価値観のコトダマ」を
お互いが理解し、リスペクトすること。
それがあってはじめて私たちは、教え、教え合い、
何かを生み出すことができるのでしょう。
目の前にいる人の「価値観のコトダマ」に敬意を払う。
大切なことだと、思っています。