コラム

Vol.85

by ひきたよしあき 2022.07.15

図書館のコトダマ

図書館で勉強することを
覚えたのは、小学校5年生の
夏休みでした。

「家じゃ暑くて勉強できない。
図書館でやる方が集中できる」

という友だちについていったのが
きっかけです。
当時、エアコンは居間に一台しか
ない時代。涼しい環境で勉強や読書が
できるなんて夢のようでした。

勉強道具と参考書をカバンに入れる。
親から電車賃をもらって、一駅先の
図書館にいく。
急にオトナになったような気分に
なりました。

図書館に行くと、私たちが最年少。
図書館の方から、

「絶対に遊んだり、私語はいけない」

ときつく言われて、自分の席を決める。
近くにいると、おしゃべりしてしまうので、
友だちとは離れて座ることにしました。

周囲を見ると、中学生や高校生が
真剣に勉強しています。
外は蝉の鳴き声と太陽の光に
あふれているのに、ここは
涼しくて、静か。
しかし、勉強する人たちの熱気が
すごくて、集中力のない私でも、
しばらくの間、だまって勉強することが
できました。

私は、図書館が気に入りました。
5年生の夏休み、週に2回、
図書館で勉強や読書をしました。

専門の新聞や街の歴史地図を眺めた
のも初めてでした。
思えば、このとき、

知的好奇心

というものが初めて芽生えたのかも
しれません。

図書館での勉強は、その後の私の人生に
大きく役立ちました。

家や学校以外の場所で勉強する。

この習慣が身についたことで、その後の
人生がどれほど楽になったことか。

高校のときも、図書館で勉強しました。
大学浪人すると、講義と講義の間に
時間ができます。
そんなとき、近くのファーストフード店で
勉強しました。人がたくさんいるところでも
集中できたのは、図書館生活のおかげです。

働くようになってからも、会社のデスクに
こだわることなく、カフェでも電車の中でも
仕事ができます。
今、私は、東京と大阪の二拠点居住をして
いますが、この移動中やホテルで仕事が
できるのも、子どもの頃、図書館で過ごした
経験が大きいと思っています。

小学5年生の夏休みに出会った
静かで熱い「図書館のコトダマ」のおかげです。

この夏は、電力不足も深刻。できるだけ節電したい
ものですね。
もし、勉強に気が乗らない、本に集中できないと
いうのなら、図書館を利用してみてはいかがでしょうか。
ゲームやスマホをなかなかやめられないで困っている
あなたも、それらから離れた「図書館時間」を
つくることで、少しゲームなどから離れられるかも
しれません。

夏の図書館は、人気です。利用者も多いでしょう。
コロナ対策を十分にして、ぜひ「図書館のコトダマ」
に出会ってください。
一生あなたを守ってくれるはずです。

  • ひきたよしあき プロフィール

    作家・スピーチライター
    大阪芸術大学客員教授
    企業、行政、各種団体から全国の小中学校で「言葉」に関する研修、講義を行う。
    「5日間で言葉が『思いつかない』『まとまらない』『伝わらない』がなくなる本」(大和出版)、「人を追いつめる話し方、心をラクにする話し方」(日経BP)など著書多数。