Vol.77 |
2021.11.15 |
「マスクの下」のコトダマ
博報堂教育財団が、2020年度に始めた
「お気に入りの一冊をあなたへ
作文コンクール」
この事業の一環として、全国の小学校を
回って「読書推せん文」の書き方を教えています。
茨城、宮城、新潟、岡山、愛媛と、
地域はまだ少ないけれど、飛び回っています。
コロナ禍で、がまんを強いられる子どもたち。
本当は、じゃれあいっこやおしくらまんじゅうが
したい年代なのに、ぐっと堪えている。
合唱もできず、笛も吹けず、
大きな声で「おはようございます」とも
言えない。
遠足も学芸会も修学旅行も中止や限定的な
開催が続いている。
ある学校の校長先生は、
「感染対策は、むしろ子どもの方が
熱心です。なんとしても学芸会をやりたいと
いう気持ちが強いのでしょう。ちゃんと
距離を保つし、大声を出すこともありません」
「新任の先生は、マスクをつけた子どもの
顔しか知りません。だから、リモートで
マスクを外した子どもの顔を見て、
『この子はこんな顔で笑うんだ』という
発見があるそうです。一概に対面がいい、
リモートがいいなんて言えないのが現状
なんですよ」
とこの時期の教育の難しさを語ってくれました。
子どもも先生も、与えられた環境の中で
一生懸命、努力している。
その姿を目の当たりにして、頭の下がる思いでした。
どこの学校も、一番の課題は、
「コミュニケーション」
だと言います。人と対話をすること。
その基礎となる、読み、書き、伝える力を
どのように身につけるか。
その施策として、図書室を充実し、
子どもたちが本に親しむ努力をしている
学校が数校ありました。
図書館の司書さんたちの力を借りて、
本を整理しなおし、子どもが興味を持ちそうな
本を目立つように置く。新しい本を購入する。
こうした努力に子どもたちはすぐに
反応するそうです。学校が力をいれると
子どもたちの利用率が増える。
これはどこの学校にも見られる傾向でした。
私の授業は、好きな本を一冊もってきて
もらいます。
その本のどこがおもしろいのか、
どんな人に読んでもらいたいのかを
語ったり、推せん文にまとめてもらったり
します。
マニアックな恐竜、昆虫、怖い話を友だちに
勧める子がいます。
ゲームばかりしている弟に、
「この本を読んで勉強してほしい」と
薦める兄。両親に、和菓子の本を薦め、
「いっしょに作りたい」という男の子。
ただしゃべりたいのに、しゃべりかけると
叱られる6年生が、「この本を親に読んで
もらえば、お母さんも怒らずに、この本に
ついておしゃべりできるかもしれない」と
訴えました。
全員マスクをしていて、声が聞き取りにくい。
でも、マスクの下のコトダマは、
誰かと話したい、笑いたい、あったかい
気持ちになりたいという思いが溢れていました。
小5の女の子が、本を推せんしたい人は、
「未来の自分」でした。
「今の私には、『あこがれ』がありません。
この本を読んで、未来の自分が『あこがれ』を
持てますように」
祈りにも似た推せんの言葉を聞いて、
ますますこの事業に使命感を持ちました。
これからも全国の子どもたちの
マスクの下のコトダマにふれたいと切に
思いました。