Vol.45 |
2020.01.27 |
下見のコトダマ
大学時代、家庭教師として教えた学生が
6人いました。
高校生が2人、中学生が4人です。
全員、第一志望の学校に入りました。
教え方の問題ではありません。
コツがあるのです。
4月に学生に会います。
すぐに志望校を聞きます。
その土日、二人で志望校を見学に
行くのです。
ただブラブラといくのではなく、
実際に通うことになったら何時に
家を出るのか。
すると何時に起きればいいか。
細かくシュミレーションして、
でかけていきます。
「ここの乗り換え、けっこう手間が
かかるなぁ。もう一本早いのに乗らないと
遅刻するかもね」
「夏はこの道、暑いだろうなぁ。
陰になるものがなさそうだね」
なんて言いながら、リアルに歩く。
大学の場合は中に入り、行きたい
学部の校舎を歩きます。
学食でいっしょにご飯を食べて、
近くの本屋にも寄ります。
「どう?こういう生活がしたい?」
というと受験生は必ず大きく肯く。
学校で写真を撮って、それを机の前に
飾って勉強を始めました。
これはもう40年近くも前のこと。
しかし、現在も受験生の気持ちに大きな
違いはありません。
先日、私が3年前から文通している子の
お母さんから連絡を受けました。
「娘が、志望校を変更せざるをえなく
なりました。ひきたさんに応援してもらって
いたのに申し訳ないと、娘が気に病んでいます」
そんなことで気に病まなくてもいいのに。
しかし私は、「○○中学合格!」なんて、
威勢のいい言葉を書いて送っていました。
私にも責任があります。
早速、お母さんに、新しい第一志望になった
学校の名前を聞きました。
休日、その学校までいっしょに歩こうと
申し出たのでした。
お母さんはびっくりされました。
娘は大喜びだと言います。
当日、最寄りの駅にご両親と娘さんが
やってきた。
4人で、受験する学校の通学路を歩き
ました。
「あぁ、春からはここの本屋できっと
立ち読みするな」
と言うと、
「前来たときも、あの学校の人たちが
いっぱい読んでました」
と嬉しそう。
「こっちから行った方が近道かもね」
なんて言いながら、学校までいくと、
中に入れてもらえました。
「もう、はいったも同然」
と言ってみんなで中に入る。
「合格するってことは、ここでの
生活を勝ち取ることだ」
というと力強くうなづいてくれました。
もう彼女の中でこの学校は、
第二志望ではありません。
近い将来始まる未来がそこにはあるのです。
受験は、志望校の偏差値やネット情報を
いくら集めてもはじまらない。
自分の生活の中に、その学校をぐっと
引き寄せて、リアルにそこで学ぶ姿を
イメージするところから始まります。
このコラムが掲載される頃には
きっと吉報が私の耳に入ることでしょう。
下見のコトダマが、彼女にきっと
力を添えてくださるはずです。