コラム

Vol.108

by ひきたよしあき 2024.06.17

リフレッシュのコトダマ

佐賀にある大隈重信の実家を訪れたことがあります。
土地は十分広いのに、珍しい二階建て。
重信の母親が、勉強に集中しやすいようにと 二階の部屋を作ってくれたそうです。

作ったのはそれだけではありませんでした。
勉強中眠くなったとき、柱に頭がぶつかって目がさめるよう、 でっぱりのある梁が机の前にあります。
通称、「ごっつん柱」。
私は、特別にこの柱に頭をぶつけることを許されました。
正座すると目の前にでっぱりがきます。頭をぶつけたら かなり痛かった。
大隈重信がどんな思いで勉強したのかが、その痛みを通じて 伝わってきました。

集中って、なかなかできないものですよね。

子どもの頃の私は、15分と机に向かうことが できませんでした。
本を読んでも、半ページも読むと、ほかのことが やりたくなりました。
計算問題も植物の観察も、飽きることばかり。
机の前に、でっぱった柱を置いて集中するように 促す親もいなかったので、飽き性のまま大人になって しまいました。

しかし、最近になって、ネットで「人はどれくらい 集中できるか」について調べてみたところ、 諸説ある中で、「15分」という答えがたくさんありました。
授業時間を全部集中するなんて無理な話だったのです。

15分程度の短い時間で人は飽きる。

そう思えば、子どもの頃の私は極めてフツーの 感覚だったのだと今になって思うのです。

大切なことは、集中力の持続時間を長くするよりも、 適度な休憩をいれてリフレッシュすること。

大隈重信のように頭を柱にぶつけた痛みで 再び集中する手もありますが、もっといい方法も あるでしょう。

例えば、江戸時代の国学者・本居宣長。
彼は、学問に身が入らなくなると、 机の上の鈴を鳴らしました。

チリン、チリン・・・

という音を聞いてリフレッシュ。
この鈴の音に助けられて「古事記伝」を35年 かけて書き上げました。
凄まじい集中力と粘りです。

私のリフレッシュ法は、

「手を洗うこと」

です。飽きるとすぐにトイレか洗面所に 向かいます。席を立って歩きだすのも ひとつのリフレッシュ法ですが、それ 以上に石鹸をつけて気持ちよく手を洗う ことが大事。
石鹸のいい匂いがすると、怠けたいと 思っていた気分が一瞬でよくなります。

もうひとつは、声を出すこと。

鼻歌でもいいから歌ってみる。独り言を言う。
なんでもいいので、声を出すと、自分の声が 体の中にしみわたって、覚醒されるかの ようです。

これに限らず、リフレッシュにはひとそれぞれ 色々な方法や工夫をもっているはずです。
周囲の人にも聞いてみて、面白いものがあったら 取り入れてくださいね。

大切なことは、集中力を伸ばすのではなく、 こまめに効果的なリフレッシュを入れること。

「リフレッシュのコトダマ」を味方につけて、 飽きたり、怠けたりする自分を変えていきましょう。

さぁ、そろそろ手を洗いに行きたくなりました。
また、来月のコラムで!

  • ひきたよしあき プロフィール

    作家・スピーチライター
    大阪芸術大学客員教授
    企業、行政、各種団体から全国の小中学校で「言葉」に関する研修、講義を行う。
    「5日間で言葉が『思いつかない』『まとまらない』『伝わらない』がなくなる本」(大和出版)、「人を追いつめる話し方、心をラクにする話し方」(日経BP)など著書多数。