コラム

Vol.114

by ひきたよしあき 2024.12.16

「過去」のコトダマ

私は、小学校4年生から日記をつけています。
書かない時期もありましたが、3ヶ月空けることなく続けています。
「日記」と言っても短いもので、基本は4行程度。
書くことがない日は、晩ごはんのおかずを書いたりしている。極めて気楽な日記です。

この日記を、年末年始の頃に読み返すことを恒例行事にしています。

「この一年、何があったのか」

覚えているようで、結構忘れています。
わずか4行ではありますが、

「あぁ、これを書いたときは辛かったなぁ」

と当時の気分を味わえます。

 

この1年だけでなく、振り返るのは3年。3冊の日記を開いて、その年の同じ月日に何をやっていたかを比較する。
同じ時期に風邪を引いていることに気づきます。ある人との出会いが、その一年を大きく左右していることもあります。手痛い失敗だと思っていたことが、人生の肥やしになっている。その失敗があったからこそ今の自分があるんだと確信することもできます。

 

何よりも、去年と今年は、同じ一年ではないことに気づく。そして多くの場合は、環境が変わる中で、考えを変え、行動を見直し、わずかではありますが、「あ、少しはマシになっている」と、自分の進歩を発見できる。
これが何よりの自信につながっています。

私たちは、つい未来ばかりを見つめてしまいます。明日や、1週間先のスケジュールを眺めて、それをこなすのに精一杯。昨日のお昼ご飯に何を食べたかも思い出せない。1週間前に誰と会っていたかもわからない。
そんな生活を送っているうちに、あっという間に一年が過ぎている。
そんな感じではないでしょうか。

未来だけでなく、他の人ばかりを気にしているのも確か。
「あの人は、あんなに成績が上がっているのに、私は全然上がらない」

そんな風に、他人と自分を比べて自信をなくす毎日を送りがちです。

でも、ちょっと待ってください。
他の人ではなく、自分の過去と今の自分を比べてみましょう。
去年知らなかったことが、今年はわかるようになっている。
昨年できなかったものが、今年はできるようになった。
これが、勉強にも、スポーツにも、日々の生活にも、人間関係にも必ずあるはずです。
間違いない。あなたは、

進みながら、強くなっている。

過去と今を比べれば、自分の成長を実感できるはずです。

辛いこと、悲しいこと、うまくいかないことがあったなら「過去のコトダマ」を訪ねてみましょう。

 

「心配することはない。ちゃんと成長しているよ」

と答えてくれるはず。昔は元気だったのに、病気をしたり、学校が面白くなくなったりしていることもあるでしょう。
しかし、そんな苦しい中でも、あなたはしっかりと、今、生きている。それが、過去より成長している証拠です。

「過去のコトダマ」と仲良くするために、日記を書いてみてはいかがでしょう。
気軽に構えて、多少、サボる日があっても、また書き始めればいい。
自分の過去を振り返る。
これは必ずあなたの自信になります。明日に立ち向かうエネルギーになります。
過去と仲良くしましょう。

  • ひきたよしあき プロフィール

    作家・スピーチライター
    大阪芸術大学客員教授
    企業、行政、各種団体から全国の小中学校で「言葉」に関する研修、講義を行う。
    「5日間で言葉が『思いつかない』『まとまらない』『伝わらない』がなくなる本」(大和出版)、「人を追いつめる話し方、心をラクにする話し方」(日経BP)など著書多数。