コラム

Vol.118

by ひきたよしあき 2025.04.15

「さぁ」と「でも」のコトダマ

「お尻が重い」とは、めんどうくさくて、動けないこと。
ものぐさになっている状態です。

ゲームをなかなかやめられず、お尻が重くなっている。
勉強をやらなきゃいけないのに、とりかかれない。

こういうことは、誰にもあるでしょう。
大人の私にもあります。「やらなければいけない」と思うと、 ますますお尻が重くなる。
やっと始めた!と思ったら、別のことをしている。

「明日はテストだ!勉強しなくちゃ」

と思う日に限って、熱心に掃除をしてしまう。
みなさんも、そんな経験があるはずです。

「お尻が重い」ときには、心の動きに法則があります。

それは「弁解がうまくなっていること」

「勉強しようと思っていたのに、お母さんに怒られて 気がのらなくなっちゃった」

「本を読もうと思ったけど、今日は体育で疲れたから 明日にしよう」

と「やらない理由」を考えるのがうまくなっている。

弁解が多いと、どんどんものぐさになっていきます。
生活にメリハリがなくなり、色々うまくいかなくなります。

さて、どうすればいいでしょう。

私は、お尻の重い状況から抜けだす方法を、ある地方の小学校の先生に 教わりました。

明るくて、行動力の塊のような先生。とても大きな声でした。
彼女が生徒に向かって話す言葉を聞いていると、

「さぁ」という感動詞をとてもよく使っています。

「さぁ、始めましょう」「さぁ、早く片づけてしまいましょう」
「さぁ、みんな、外にでよう!」

生徒全員に向けて、「さぁ!」と呼びかけるのです。

「さぁ」は、行動に移す時に「こちらに進みましょう」と指示してくれる 言葉。新しい局面に移ることを表したり、強い意志を示すときに使います。

先生は、お尻が重くなっている生徒に、「さぁ、動こう」と短い言葉で 行動を促していました。

先生が、「さぁ」をよく使うと言う話をご自身に伝えました。
すると、先生は、

「魔法の言葉は、もうひとつあるんです。

 『でも』

という言葉。生徒が、やれないことへの弁明ややりたくない理由を 言い出したら、にっこり笑って、

『でも、やろう』

と言います。生徒は、『あぁ、いくら言い訳しても無駄だ』と思う。
すると案外簡単に、動いてくれます。お尻の重い子を動かすには とても効果的ですよ」

私は、先生の話を聞いてから、自分に向けて「さぁ、やろう」「でも、やる」 と言うようにしています。
自分の頭に、やりたくない理由が次々と浮かんできたら、即座に

「さぁ、やろう」

と言って機械的にピョンと立ち上がってしまう。
それでも、やりたくない理由が浮かんでくれば

「でも、やる」

と、その弁明を断ち切ってしまう。「さぁ」と「でも」のコトダマは、 重くなったお尻、怠けたくなる心をシャキッとさせる魔法の言葉です。
ぜひ、口癖にしてください。

とはいえ、春のこの時期は、心も体も疲れるよね。無理は禁物です。
「休みたい」という体の声を聞き逃すことのないように。

「さぁ、寝よう」「でも、休む」

と自分に言い聞かせることも忘れないでください。

  • ひきたよしあき プロフィール

    作家・スピーチライター
    大阪芸術大学客員教授
    企業、行政、各種団体から全国の小中学校で「言葉」に関する研修、講義を行う。
    「5日間で言葉が『思いつかない』『まとまらない』『伝わらない』がなくなる本」(大和出版)、「人を追いつめる話し方、心をラクにする話し方」(日経BP)など著書多数。