第56回「博報賞」 博報賞受賞
[神奈川県]特定非営利活動法人 心魂プロジェクト
心魂プロジェクトは、劇団四季や宝塚歌劇団の出身者を中心に、難病や障がいのある子どもたち、きょうだい児、その家族に向けて本格的な舞台芸術を通して“心が動く体験”そして表現活動の機会を提供している。
2014年に創設。以来、病院や小児病棟、自宅で療養するなど、外出することが難しい子どもたちに“感じる・表現する・つながる”ことをあきらめずにすむよう、病院や特別支援学校などへの訪問公演やオンライン配信をとおして、誰もが安心して参加できる体験の場を創り出している。現在では、難病や障がいのある子どもたち、きょうだい児によるパフォーマンス「心魂キッズ団」を発足させ、その活動は広がっている。
代表理事の有永美奈子さんは「子どもにとって大切なのは“心が動く体験”です。『やってみたい』という意欲、『もっと頑張りたい』という気持ちが、未来を描く力になると信じています」と話す。
子どもに寄り添い、一人一人の可能性を導く
この日、横浜市立北綱島特別支援学校で行われた公演は、各国を訪れる<世界旅行>をテーマにした舞台。公演中盤では、この学校の卒業生で「心魂キッズ団」一期生の吉田桃さん(パフォーマー/りんごちゃん)が登場。先生や生徒が見つめる中、練習してきたパフォーマンスを見事に披露した。
生まれつき重い心疾患のため入退院と自宅療養を繰り返す生活を送っていた吉田さん。そんな彼女の転機となったのが心魂プロジェクトの月例ワークショップとの出会いであり、プロのアーチストが本気で子どもたちと向き合い、一人一人の思いを表現に導いていく場所だった。自分から感情を言語化したり、意志を示したりすることが難しい吉田さんにとって「自分も仲間の一員」と感じることができた初めての場所となった。
「多くの子どもが観劇体験を通して心を動かされる中で、“自分も舞台に立ってみたい”と自ら手を挙げた子どもたちによって生まれたのが『心魂キッズ団』です。私たちは『あきらめないでいい』『やれる方法を一緒に見つけよう』という姿勢で子どもたちと関わります。今日のりんごちゃんのパフォーマンスは自身で創作しました。すごいでしょ!」と笑顔で話す有永さん。「なかには、視線やわずかな動きで意志を伝え、自身のやりたい気持ちを表現する子もいます。私たちは、どんなに重度の障害があっても子どもたちの中にある意志や可能性を信じて、一つ一つの表現に寄り添うようにしています」と熱を込める。
子どもの思い、活動に反映させて
チャレンジして、失敗して、子どもたちは日々成長する。しかし、難病や障がいのある子どもたちは、その機会が少ないと話す有永さん。そして、自身が初めて病院で公演をした時のことをこう話す。「訪問した場所は、重症心身障がい病棟。長い間病院だけで生活をしている方々です。でも、みんなが私たちのパフォーマンスを受け入れてくれました。その時に、この活動の意味を見つけた気がしました。皆さんから私自身も気づきをもらえたのです」
心魂プロジェクトでは、子どもたちの表現が自然に引き出せるよう、体調や特性、環境に合わせ工夫をしている。大切なのは、上手に演じることではなく“今の自分が、今できるカタチで何かを伝えるということ”。たとえ途中で眠ってしまっても、それがその子にとっての大切な表現と考えている。表現手段も自身がパフォーマーとして舞台に立つだけでなく、視線入力やスイッチなどの入力支援機器などを用いながら、あるいは体調に応じてメタバース参加など、“その子ができる方法”で届けたい、伝えたい思いを表現すること。その創作プロセスをとても大事にしている。その結果、できた!伝わった!という経験が、子どもたち自身の主体性や自己肯定感を醸成し、社会とのつながりを広げるのだ。
こうした変化は日常の中でも、子どもたちの選択や行動にも表れ始めている。通信制高校への進学を自ら選び、入退院を繰り返しながらも卒業を果たした難病の子、「自分で決めたことはやり遂げる」と自身の体調に向き合いながら自分のペースで学びを続けた子。有永さんは、活動に参加した子どもたちの表情や表現にも「これまで『誰かにしてもらう』から『誰かに届ける』存在に変化している手ごたえを感じます」と話す。
一方で、活動を継続するための仕組みづくりについても前向きだ。「今、必要と感じたらまずやってみること。そして動きながら修正し整えていく」という姿勢で活動を前にすすめている。さらに、プロのパフォーマーが作品作りや公演に集中できるよう、事務や広報活動なども社会人パフォーマーや障がい児の親など多様な人たちの協力を受けながら、プロジェクトの専門性や活動のスピード感を高めている。
多くの人との出会い、人と社会がつながる活動へ
近年、心魂プロジェクトは持続可能な活動を目指し、若い世代の人材育成に取り組みながら、志を同じくする団体との連携や共催での活動にも力を入れている。そして、講演会や企業、通常学級を含む学校での公演などを通し、命の授業やキャリア教育、共生社会への理解を広げている。
さらに、こうした活動が保護者や医療・教育関係者にとっても子どもたちの可能性を見つめ直すきっかけになっている。通常学級を含む学校から有料での公演依頼が届くなど“生きるとは何か”、“自分らしく生きるとはどういうことか”など、広く社会に開かれた学びのカタチとしても評価が高まっている。
「でも、活動の広がりはこれからです」と話す有永さん。「人と人が出会い、人と社会がつながる。私たちのように熱心に活動に取り組む人や団体は全国に多くあります。そのつながりをさらに築いていきたい。今回の博報賞の受賞は正直驚きでした。でも、子どもたちの成長に少しでも寄与していると受け止めていただけたことはとても励みになりました」。さらに「私たちは、病気や障がいがあるために、どこにも出かけられない子どもたちの選択肢を少しでも増やしたいと思っています。行くか行かないかを自身で選べるように、心魂プロジェクトがそのきっかけになればと思います。いつ何があっても不思議でない子どもたちです。私たちも覚悟を持って活動に取り組んでいます」
子どもたちの主体性を育み、社会とつながる心魂プロジェクト。その活動はさらなる広がりを見せている。
(企画・制作/神奈川新聞社クロスメディア営業局 神奈川新聞2026年3月18日 掲載分より転載)
※記載の所属・役職は、受賞当時のものです。
博報賞とは
「博報賞」は、児童教育現場の活性化と支援を目的に、財団設立とともにつくられました。日々教育現場で尽力されている学校・団体・教育実践者の「波及効果が期待できる草の根的な活動と貢献」を顕彰しています。また、その成果の共有、地道な活動の継続と拡大の支援も行っています。
※活動領域:国語教育/日本語教育/特別支援教育/日本文化・ふるさと共創教育/国際文化・多文化共生教育 など
第57回「博報賞」の応募受付を4月1日(水)より開始します。
詳細は博報賞のページをご覧ください。
*博報賞に関するお問い合わせ先
hakuhoushou@hakuhodo.co.jp (博報賞担当宛)




