「博報賞」
受賞者の活動紹介

第56回「博報賞」 博報賞受賞
[千葉県]柏市立大津ケ丘第一小学校

創造力で地域を変える ~未来社会を担う子どもたちの挑戦~
独創性と先駆性を兼ね備えた教育活動領域

 学習指導要領は、子どもたちに「さまざまな人々と協力しながら社会的変化を乗り越え、持続可能な社会の創り手となること」を求めている。一方、各種調査では「社会を変える」という意識や自己効力感が十分に育っていない実態が指摘される。背景には、教育課程の中で地域や社会の課題に目を向け、解決に向けて行動する経験が限られていたことがあるとされる。
 そこで柏市立大津ケ丘第一小学校は、「国」という大きな単位ではなく、子どもにとって最も身近な「地域」を入り口にして、社会参画の力を育てる教育課程をつくることを目指してきた。地域を「自分たちが関われる社会」と捉え直すことで、「自分の力で身の回りの世界を変えられる」という実感を積み重ね、創造力に対する自信を育むことを狙いとしている。
 同校はコミュニティスクールの仕組みを軸に、学校・家庭・地域・行政・企業との連携を深め、学びを再設計してきた。授業づくりでは情報活用能力を土台に、思考と対話を重視する。教員は、子どもたちが「何のために学ぶのか」を実感できる単元設計を意識し、ICT端末も「特殊な機器」ではなく、考えや思いを形にする手段として位置づけた。子どもたちは課題を見つけ、解決策を考え、試し、発信する。その循環の中で、学びが地域とつながる手応えを得ている。

市内にある東京大学の施設を取材する子どもたち
市内にある東京大学の施設を取材する子どもたち

地域に寄り添った活動 子どもたち自信深める

 実践の柱は大きく三つある。
 第一は、デジタルイルミネーションだ。コロナ禍で手賀沼花火大会が中止となったことをきっかけに始まったもので、6年生がプログラミングで花火映像や自作の音楽、地域の方への感謝のメッセージを制作し、校舎に投影する。4年生も、校舎内を舞台に立体物を使ったプロジェクションマッピングに挑戦した。子どもたちの歓声と地域住民の拍手が響くこの取り組みは、「地域に元気を届けたい」という思いから生まれ、今では恒例行事として定着しつつある。学校発の学びが、地域の「楽しみ」そのものになる経験は、子どもたちにとって成功体験として残る。
 第二は「地域の魅力発信プロジェクト」。地域の人や場所を取材し、ウェブページや動画で紹介する。開始当初は子どもたちの関心に基づいて対象を選び、取材を申し込む形で運営していた。だが、「地域の力になる」という目的をより明確にするため、地域からの依頼を受けて企画・取材・制作・発信までを担う形に発展させた。今回は、6年生が疑似会社「大津ケ丘クリエイティブカンパニー(OCC)」を設立。頼まれごとを「受注」して形にする過程で、相手の意図をくみ取り、限られた時間で情報を集め、伝わる表現に落とし込む力が鍛えられる。
 子どもたちは、取材を通じて地域の魅力を自分の目で再発見し、発信力と情報活用力を高めている。「動画を喜んでもらえた」(小学6年生女児)「肯定的な反応が返ってきた」(小学6年生女児)と達成感を口にし、「時間配分を考えるようになった」(小学6年生女児)「対話力を生かして初対面の人とも話したい」(小学6年生女児)「いろんな人と接して、寄り添う気持ちを学んだ」(小学6年生男児)と成長も実感する。実践を通じて「小学生にも任せてもらえるほど人々が信頼し合っている」(小学6年生男児)と地域の懐の深さを実感し、子どもたちは「隠れた名所が多い」など地域の強みを確認していく。依頼が学びを動かし、学びが地域の価値を掘り起こす循環が生まれている。
 第三は「まちおこし協力隊プロジェクト」としての交流だ。オンライン会議やクラウドツールを活用し、全国の小学校8校に加え、台湾の小学校ともつながる。互いの地域を紹介し合うことで、子どもたちは自分の地域を客観視し、異なる価値観にも触れることができる。3Dプリンターで地域グッズを作る「地域ガチャ」や、紹介動画につながるQRコードの配布など、創造的なアイデアは子どもたち自身が発案している。これらのアイデアが各地に広がり、全国規模のプロジェクトに発展してきた。発信の相手が地域内にとどまらず外へ広がることで、「伝える」必然性が高まり、表現も洗練されていく。

OCCの役員会議に臨む子どもたち
OCCの役員会議に臨む子どもたち

地域の力になれると実感 社会との連携も拡大

 活動当初、「地域を変える」ということばに戸惑い、自分ごととして捉えにくかった子どもたちも、継続する中で前向きに挑戦する姿勢を見せるようになった。デジタルに強く、情報発信ができる点が自らの強みだと、子どもたちも気づいた。実践前後のアンケートでは、「自分には世界を変える力がある」と答えた子どもが29%から85%へ上昇。教員も、数値以上に表情や発言の変化を感じるという。「自分たちの学びが地域の力になっている」という実感が、次の挑戦への原動力にもなっている。
 学力面での変化も見られる。市の学力調査では、算数の正答率が活動実施後に平均を上回るようになった。特に記述式問題の得点率が高まり、「考えをまとめて伝える力」「相手意識を持った表現力」の向上がうかがえるという。地域の課題に向き合い、調べ、整理し、発信する経験が、教科の学び方そのものを変えている。
 実践の広がりも大きい。市内の大学や企業、各種団体との連携が、子どもたちの創造力を社会につなぐ橋渡しとなり、地域の人々は協力者から共創者へと役割を変えてきた。佐和伸明校長は、受け身ではなく自ら考えて学ぶ姿勢の重要性を強調する。同校では、地域や家庭、行政、企業など多様な人と理念を共有しながら教育課程を再構築してきた。授業でも情報活用能力を基盤に、思考と対話を重視し、ICT端末を子どもたちの思いやアイデアを形にする手段として位置づけている。
 GIGAスクール構想で1人1台端末の環境が整う中、ICTは「特別な技術」ではなく、子どもたちの思いやアイデアを形にする道具として日常的に使える。身近な地域を舞台に、学びを社会へ接続する設計ができれば、同様の実践は他校でも十分に展開可能だとみる。子どもたちの一歩が地域を動かし、その手応えが次の一歩を生む。学びの循環が、地域の未来と子どもの未来を同時に育てている。

佐和伸明校長
佐和伸明校長

(企画・制作/千葉日報社東京支社 千葉日報2026年3月13日 掲載分より転載)
※記載の所属・役職は、受賞当時のものです。

博報賞とは

「博報賞」は、児童教育現場の活性化と支援を目的に、財団設立とともにつくられました。日々教育現場で尽力されている学校・団体・教育実践者の「波及効果が期待できる草の根的な活動と貢献」を顕彰しています。また、その成果の共有、地道な活動の継続と拡大の支援も行っています。
※活動領域:国語教育/日本語教育/特別支援教育/日本文化・ふるさと共創教育/国際文化・多文化共生教育 など

第57回「博報賞」の応募受付を4月1日(水)より開始します。
詳細は博報賞のページをご覧ください。
*博報賞に関するお問い合わせ先
hakuhoushou@hakuhodo.co.jp (博報賞担当宛)

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