第56回「博報賞」 博報賞受賞
[秋田県]小林 陽介(北秋田市立義務教育学校阿仁学園 校長)
少子高齢化と人口減少が急速に進む県内では、古里に愛着や誇りを持ち、地域を活気付ける人材育成の重要性が高まっている。北秋田市は全ての小中学校で、郷土資料集「きらり☆きたあきた」を活用した「ふるさと教育」を展開する。市教育委員会が作成したこの資料集は、小学校入学時に全ての児童に配布され、中学卒業までのさまざまな学習や地域活動に役立てられている。児童生徒の郷土愛を育み、表現力や行動力を高める好循環を生み出している。
わくわくするデザイン 検定やかるたも楽しく
小学1年~中学3年にあたる1〜9年の59人が通う同市の義務教育学校阿仁学園。1月下旬の授業で、小学1・2年の5人が「ふるさとかるた」を楽しんだ。
「木をつつきまくる北秋田市の鳥 国内最大のキツツキだよ」。教諭が札を読み上げると、一人の児童が勢いよく絵札に手を伸ばし、元気に答えた。「はい、クマゲラです」。児童らは手元に置いた資料集を時々確認しながら絵札を探した。全校でかるたを楽しむ時間も設けられ、学年を超えて交流した。
かるたは全て児童生徒の手作り。資料集を参考に文や絵柄を決めた。毎週金曜15分間の朝学習を利用して完成させた。
郷土資料集はA4判、122㌻。プロローグと、環境、伝統、文化、歴史の4分野、エピローグで構成し、同市の自然や産業、祭り、食、名所などを網羅的に紹介している。編集したのは同学園校長の小林陽介さんだ。市教委推進監に就任した2018年度から2年かけて、各地の公民館長や市ゆかりのイラストレーター、商工業者らの協力を得て冊子を作成した。
イラストや写真を大胆に配置した各ページは、さながらガイドブックのようだ。小林さんは「教科書と雑誌の中間のようなデザインをイメージしました。子どもも大人も読んでわくわくする、自由で明るい〝新感覚〟の資料集を作りたかったのです」と狙いを語る。「地域のことを知れば、もっと地域が好きになり、地域のことを発信したくなります。北秋田市はきらりと光る魅力にあふれていることが伝わる資料集にすることを重視しました」
低学年も読めるように全ての漢字にルビを付けた。児童生徒が楽しめる仕掛けとしてかるた作りの「ワークページ」や全50問の「きらりきたあきた検定」も用意。検定の問題は児童生徒のタブレット端末からも解答できる。
研修会で実践例を紹介 地域で出前講座も開催
資料集を発行した20年度から2年間は、学校現場での活用推進に取り組んだ。市教委の研修会などを通じて国語、社会、図工・美術、道徳といった教科ごとの実践例を提示。資料集の各ページの電子データを教諭らに公開し、印刷して活用してもらった。資料集に掲載しきれなかった写真や画像は授業のプレゼンテーション資料として利用できるようにした。
保護者のほか、地元高校生や婦人会など市民向けの出張授業や出前講座も開催し、資料集をPRした。市民からは「長く地元で暮らしているのに、知らないことがたくさんあって驚いた」などの声が寄せられたという。
「資料集は今や、学習や生活の中にあって当たり前、使って当たり前のものとなりました」と小林さん。市教委が児童生徒に実施する「ふるさとアンケート」の24年度の結果をみると、「ふるさとのことが好き」「大人になってもふるさとを大切にしたい」との質問に「そう思う」「どちらかといえばそう思う」と答えた児童生徒の割合はいずれも9割超。その内訳を資料集導入1年目の20年度と比較すると、「どちらかといえばそう思う」という回答の割合が減り、「そう思う」が増えていた。
児童生徒の表現力向上 市民の励ましが後押し
小林さんは「資料集の活用を通じて、当学園の子どもたちの表現力が格段に高まりました」とも評価する。同学園は「アウトプット(発信)主体のふるさと教育」を大切にしている。児童生徒の「地域の魅力を伝えたい」という思いを生かして、発表やクイズの機会を増やし、観光ガイド活動やアート活動などにも積極的に取り組んでいる。「子どもたちが地域に向けて学んだことや思いを発信すると『すごいね』『ありがとう』などの声が返ってきます。こうした市民の声に励まされて子どもたちの主体性や地域への愛着がさらに育つという好循環ができています」と小林さんは語る。
市民からは「資料集を購入したい」との声も寄せられている。古里を愛し活気付ける人材育成の取り組みは、学校という枠組みを超えて、地域全体に広がりそうだ。
(企画・制作/秋田魁新報社営業局 秋田魁新報2026年3月17日 掲載分より転載)
※記載の所属・役職は、受賞当時のものです。
博報賞とは
「博報賞」は、児童教育現場の活性化と支援を目的に、財団設立とともにつくられました。日々教育現場で尽力されている学校・団体・教育実践者の「波及効果が期待できる草の根的な活動と貢献」を顕彰しています。また、その成果の共有、地道な活動の継続と拡大の支援も行っています。
※活動領域:国語教育/日本語教育/特別支援教育/日本文化・ふるさと共創教育/国際文化・多文化共生教育 など
第57回「博報賞」の応募受付を4月1日(水)より開始します。
詳細は博報賞のページをご覧ください。
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