「博報賞」
受賞者の活動紹介

第56回「博報賞」 博報賞・文部科学大臣賞受賞
[宮崎県]西都銀上学園 西都市立銀上小学校・銀鏡中学校

銀上地域の自然・文化が紡ぐ教育の再生 ~山村留学制度と共に歩んできた30年の取組~
日本文化・ふるさと共創教育領域

 「14日のもぐら打ち!」「畑の隅までもぐら打ち!」。1月14日の夕刻。西都市北西部の銀上(しろかみ)地区で正月の伝統行事「もぐら打ち」が行われた。子どもたちが地域の家を訪問。歌いながらわら束をくくり付けた棒で地面をたたき、作物に害を及ぼすモグラを追い払う動きを繰り返し、五穀豊穣を願った。山あいの集落にこだまする子どもたちの元気な声。地元の70代男性は「私も幼いころにしていた行事が今も受け継がれていてうれしい。山村留学のおかげです」と顔をほころばせた。
 子どもたちは宮崎県で唯一、山村留学を受け入れている銀上小と銀鏡(しろみ)中の一貫校である西都銀上学園(18人)の児童・生徒たちだ。少人数で教育を受けながら、地域の人とも積極的に交流し、自然豊かな山里での暮らしや伝統芸能の継承といった体験を通じてたくましく成長していく。高齢化や人口減少に直面している銀上地域にとって住民と学校が一体となって取り組む山村留学は、地域活性化の大きな柱となっている。

わら束を地面に打ち付け、もぐら打ちをする子どもたち
わら束を地面に打ち付け、もぐら打ちをする子どもたち

人口減を懸念し開始

 銀上地区は西都市中心部からクルマで約1時間かかる険しい山間部にある。住民らが「奥日向銀上山村留学実行委員会」を立ち上げ、山村留学を受け入れ始めたのは1995年。地域の主産業である林業が衰退し、人口は200人ほどまで減少していた。前年には路線バス廃止の話も浮上し、このままでは学校の存続が危ぶまれ、地域が増々衰退していく―。強い危機感から生まれたのが、地区外から子どもを受け入れ、地元住民が「里親」として預かって学校へ通わせる山村留学制度だった。
 当時から実行委員会の事務局を務める濵砂孝義さんは「生まれ育った地域を守りたいという一心。損得勘定抜きだった」と振り返る。慣れないワープロで募集文書を作り、県内各地の教育委員会へお願いに回った。新聞に広告を出し、九州各地から留学生を募った。そうして小学生と中学生の初めての留学生2人が集まり、留学制度がスタート。宮崎県内ではその後、他の地域も山村留学を始めたが、子どもが集まらず制度を中止。銀上は唯一継続している地域で、現在は小学生8人、中学生6人の留学生を受けて入れている。

児童生徒の「再生」の場

 地域の協力を得て、子どもたちは川遊びや地元特産品である柚子の収穫、はちみつ採り、星空観察、餅つきなどさまざまな自然体験活動を行う。夏になると宮崎県で初めて国の重要無形民俗文化財に指定された「銀鏡神楽」の練習が始まり、有志の手ほどきを受けながら舞手として冬の本番に備える。卒業生の中には銀上を離れても舞手として神楽に参加するなど、地域の貴重な文化財の伝承に大きく貢献。それは神楽が国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産登録候補に決まったことにもつながっている。
 銀上に集まってくる子どもたちの多くは、もともと友人や家族など人間関係の悩みを抱えている。その心が銀上での生活で解きほぐされていく。自然との触れ合いが感情や表情を豊かにし、学校や下宿先でさまざまな役割を果たすことで自信や自己肯定感が高まり、積極性が育まれる。その姿を里親や地域の人たちが温かく見守る。
 ある生徒は、中学から銀上へ留学した。内気な性格で、親元を離れての暮らしは不安だったが、里親や留学仲間と過ごすうちに少しずつ自分の意見をはっきり言えるようになったという。「自分が習ったことを後輩に教えたり、学校や地域の行事で司会を務めたりするうちに、どんどん自信がついた。性格が180度変わった」と堂々とした顔つきだ。
 横山一憲校長は「小さな学校なので一人一役が当たり前。仲間との協力も欠かせない。1年間でも子どもたちは劇的に変わる。生き生きとしていて、問題を抱えていたとは思えないくらい輝いている。多くの子どもたちが救われている」と話す。

子どもたちも参加する地域の伝統芸能「銀鏡神楽」
子どもたちも参加する地域の伝統芸能「銀鏡神楽」

銀上は第二のふるさと

 30年間で延べ419人の留学生を全国から受け入れてきた。今でも携帯電話やスマートフォン、ゲームは禁止。不便で不慣れな山里での生活。それでも一度結ばれた絆は固く、里親を結婚式に招待したり、わが子を連れて里親宅を訪ねたりする留学生がいる。
 子どもや親の気質の変化、里親の高齢化や確保など事業継続への課題はある。濵砂さんは「集落に子どもの声が響くと幸せな気持ちになる。みんなで山村留学の継続を図っていくことが大切」と話し、横山校長も「学校として、もっと地域と子どもたちをつなげられる工夫はないか考え続けたい」と賛同する。

濵砂事務局長と銀上学園の横山校長
濵砂事務局長と銀上学園の横山校長

 この春卒業する中学3年の女子生徒は小学生時代を含め、通算4年間を銀上で過ごした。4月からは西都市外の高校へ進学する。
 「ここでしかできない体験をいっぱいできた。地域の人との距離が近く、お互い話しかけたり、思いやったり。自分から積極的にコミュニケーションを取れるようにもなった。里親さんには、血はつながってないけどわが子のように接してもらい感謝の気持ちしかない。ここは本当に第二のふるさと。大人になっても毎年、柚子の収穫のボランティアに帰ってきたい」

(企画・制作/宮崎日日新聞社 宮崎日日新聞2026年3月13日 掲載分より転載)
※記載の所属・役職は、受賞当時のものです。

博報賞とは

「博報賞」は、児童教育現場の活性化と支援を目的に、財団設立とともにつくられました。日々教育現場で尽力されている学校・団体・教育実践者の「波及効果が期待できる草の根的な活動と貢献」を顕彰しています。また、その成果の共有、地道な活動の継続と拡大の支援も行っています。
※活動領域:国語教育/日本語教育/特別支援教育/日本文化・ふるさと共創教育/国際文化・多文化共生教育 など

第57回「博報賞」の応募受付を4月1日(水)より開始します。
詳細は博報賞のページをご覧ください。
*博報賞に関するお問い合わせ先
hakuhoushou@hakuhodo.co.jp (博報賞担当宛)

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