第55回「博報賞」博報賞受賞
[東京都]特定非営利活動法人 フリー・ザ・チルドレン・ジャパン
子どもには世界を変える力がある
この活動は、ある少年の想いから始まった。1995年、当時12歳だったカナダ人のクレイグ少年がある新聞記事を目にしてショックを受ける。「児童労働で苦しんでいたパキスタンの少年が何とか自力で脱出し、NGOの支援を受け児童労働の反対運動をしていたところ射殺された」。世界には貧困や差別で苦しむ子どもが大勢いる。子どもの問題なら自分たち子どもで取り組みたいと、クレイグ少年が1995年に「フリー・ザ・チルドレン(FTC)」を立ち上げた。日本での活動が始まったのは、1999年。当時アメリカのNGOでインターンをしていた現・団体代表の中島早苗さんがFTCの活動を知り感銘を受け、日本に紹介したいと「フリー・ザ・チルドレン・ジャパン(FTCJ)」を設立した。1989年に国連において子どもが心身ともに健やかに育つための権利「子どもの権利条約」が採択されたが、国内外でこの権利が守られているとは言いがたい状況でもあったという。
FTCJが掲げる理念は「世界は変えられる。子どもがそう信じられる社会に」。その理念について事務局長の出野恵子さんはこう語る。「国内外の子どもたちを貧困や差別から自由にするための支援と並行して、子どもが自分の権利を認識して、社会に変化を起こす〝チェンジメーカー〟になるよう伴走している」。活動内容は多岐にわたるが、すべてがつながり合っている。大別すると、寄付などを通じて貧困や差別から国内外の子どもを解放する「自立支援プログラム」と、支援プログラムなどで取り組んでいる社会課題を子どもたちに伝え、さらにそれを〝自分ごと〟として考えアクションを起こす力を育てる「啓発プログラム」を実施。具体的には、子どもが知るきっかけを作る出前授業や教材開発の提供、そしてアクションを起こすスキルを身につけられるキャンプやスタディツアーなどを行っている。出前授業は子どもが考える力を養えるワークショップ形式で、全国各地で年間100回以上実施する。キャンプへの参加は小学5年生以上を対象とし、フィリピンなどの現地の子どもたちと交流できるスタディツアーには中学生から子ども一人で参加できる。

おとなと子どもは水平な関係
メンバー登録した子どもたちは、自ら社会課題を見つけ出し、主体となって社会活動を行っている。FTCJが発行する「ソーシャルアクション報告書2023-2024」によると、活動内容はボランティア、資金・物資調達、啓発活動、政策提言など多岐にわたり、活動人数は約1000人。現在FTCJのスタッフは8名、ボランティアは約30名。出野さんはスタッフとしての心構えをこう話す。「私たちは指導者ではなくファシリテーター。常に子どもと水平な立場であることを心がけている。また、個々の理解力や成長に合わせた伝え方や助言、例えば『他者の意見や価値観を傾聴する』など安心して活動に参加できる場づくりを行っている」。子どもたちのアクションを支える独自の〝方程式〟も大切にしている。「Gift(才能)+Issue(解決したい問題)=Change(変化)」。「自分の好きや得意を活かして楽しく活動してほしい」。
1月17日、世田谷区立瀬田小学校にて、小学5年生を対象に出張授業が行われた。昨年9月に実施された第1回目の出張授業でSDGsの基本を学んだ子どもたち。この日は、次のステップとして自分が知る社会課題を付せんに書き出し模造紙に貼り、関連する社会問題を線でつなげるワークショップなどを実施した。「あらゆる社会問題はつながっている。すべての問題を解決するのは難しいが、一つ一つ取り組むことに意義がある」とファシリテーターを務めた出野さん。「Gift+Issue=Change」も紹介した。授業が終わり、子どもたちは「子どもにもできることがあると学んだ」。「誰でもSDGsに取り組めると知った」。「僕は漫画が好きなので、環境問題をテーマに描いてみたい」と感想を話してくれた。
子どもの権利を第一に考えた社会を
創設から25年以上が経ち、卒業したメンバーの中から国連職員など社会課題解決に取り組む人材を数多く輩出している。FTCJとしては、今後もぶれずに子どもの可能性を育むことに尽力する一方、新しいフェーズにも向かっていくという。日本では、2023年4月に「こども家庭庁」が発足し「こども基本法」が施行。子どもに関する政策を決める際、行政機関は子どもの意見を取り入れることが義務化された。出野さんは展望をこう語る。「これまでの子どもの意見を聴きながら事業を行ってきたノウハウを活かし、自治体など大人向けに子どもの意見聴取に必要な配慮やスキルを習得できるファシリテーター研修にも力を入れている。この機運を逃さずに、子どもの権利を第一に考えた社会を目指しアプローチを続けたい」。
フリー・ザ・チルドレン・ジャパン 中島早苗代表から
「子どもは未熟で弱い存在である」私たちの社会ではそういった認識が少なからずあります。確かにその通りかもしれません。しかし、だからと言っておとなが子どもを管理し、思い通りにして良いわけではありません。周りと調和することばかりが、日本の社会では無難とされるなか、周りや世界に目を向け、様々な立場に置かれる人々や異なる価値観を理解し、自分たちにできることを考える―そういった子どもたちが増えたら、日本はもっとより良い社会になるのではないか。そのような想いから、フリー・ザ・チルドレンのモットー「子どもや若者は助けられるだけの存在ではなく、自身が 変化を起こす担い手である」を日本の子どもたちに伝え体現したいと、フリー・ザ・チルドレン・ジャパンを1999年に立ち上げました。昨年の2024年でちょうど設立25周年を迎え、博報賞に選ばれたことは大変嬉しく大きな励みになりました。この名誉な賞に恥じぬようにこれからも活動していきたい、そう考えています。特に「すべての子どもは生まれながらにして、子どもの権利をもち、一人の人間として尊重されるべき尊い存在である」という子どもの権利条約の理念を、日本と国際協力活動を展開する支援地域の子ども自身が感じることができるよう、様々なセクターや組織と連携し、子どもの力を育てる活動に取り組み、子どものウェルビーイングを実現することが、これからの私たちの目標です。

中島早苗プロフィール
認定NPO法人フリー・ザ・チルドレン・ジャパン代表。アパレル会社勤務後、米国NGOでのインターン中にFree The Childrenを知り理念に共鳴し、日本に紹介しようと1999年に団体を設立。以後、活動に従事。2007年国際ソロプチミストより「青少年指導者育成賞」受賞。著書に「フィリピンの少女ピア」(大月書店刊)等の他、共著に「こども基本法こどもガイドブック」(2024年8月子どもの未来社刊)がある。2022年7月より新潟市子どもの権利推進委員会委員に就任。
(企画・制作/東京新聞メディアビジネス局 東京新聞2025年3月14日 掲載分より転載)
※記載の所属・役職は、受賞当時のものです。
博報賞とは
「博報賞」は、児童教育現場の活性化と支援を目的に、財団創立とともにつくられました。日々教育現場で尽力されている学校・団体・教育実践者の「波及効果が期待できる草の根的な活動と貢献」を顕彰しています。また、その成果の共有、地道な活動の継続と拡大の支援も行っています。
※活動領域:国語教育/日本語教育/特別支援教育/日本文化・ふるさと共創教育/国際文化・多文化共生教育 など
現在、第56回「博報賞」の応募を受付中です!(応募受付期間:2025年4月1日~6月25日 ※財団必着)
詳細は博報賞のページをご覧ください。
*博報賞に関するお問い合わせ先
hakuhoushou@hakuhodo.co.jp (博報賞担当宛)