日本研究
フェローシップ

第13回中間研究報告会

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2019年2月22日
会場:東京コンファレンスセンター・品川

第13回中間研究報告会が開催され、9月に来日した長期招聘研究者12名がこれまでの研究の進捗状況を報告しました。質疑応答では、研究についての率直な疑問や意見、アドバイスが寄せられ、研究者にとって研究の課題や方向性を改めて確認する、よい機会になったのではないかと思います。最終報告に向け、それぞれの研究がさらに深化していくことを期待させる報告会でした。


研究報告

今回、報告を行った招聘研究者は、日本語・日本語教育研究が4名、日本文学・日本文化研究が8名です。日本語・日本語教育研究の分野では、それぞれの母国の日本語教育の現状・課題を踏まえ、現場で活かされることを目指した実践的な研究が多く報告されました。また、日本文学・日本文化研究では、祭礼、建築、食文化、歴史と、これまで以上に多岐にわたるジャンルの研究報告が行われました。
質疑応答では、補った方がいいと思われる部分、修正点、研究の広げ方などのアドバイスやリクエストが寄せられる一方、主軸、到達目標をどこに置くのかなど、研究の方向性を改めて確認する質問もありました。最終報告会に向け、残された課題、新たな課題が明確になったことで、それぞれが今後の研究へ意欲を新たにしました。

(以下敬称略・報告順)

1.アラム モハメッド アンサルル
ダッカ大学 現代言語研究所・准教授(バングラデシュ)
『在日バングラデシュ人が直面する問題に焦点を当てた調査研究─バングラデシュの日本語学習者のためのケース教材の作成を目指して─』

2.オズベッキ アイドゥン
チャナッカレ・オンセキズ・マルト大学 教育学部 日本語教育学科・准教授、学科長、言語応用研究センター長 (トルコ)
『日本語とトルコ語におけるテンス・アスペクトの諸相及び証拠性・ミラティビティ現象 の対照研究』

3.劉 佳琦
復旦大学 外国語言文学学院 日語語言文学系・准教授、日語語言文学系副主任(中国)
『中国語母語話者における日本語音声習得の実証的研究─知覚と生成の相関性を中心に─』

4.アダル ラジャ
ピッツバーグ大学 歴史学部日本史・助教授(アメリカ)
『アジアにおけるタイプライターの世紀:権威、美学、そして書の機械化』

5.ケリヤン マヤ ベドロス
ブルガリア科学アカデミー社会 知識研究所・教授(ブルガリア)
『日本とブルガリアの地域社会における祭礼比較を通して』

6.羅 曉勤
銘傳大学 応用日本語学科・准教授(台湾)
『海外における日本語ビジネス人材育成へのケースメソッド教授法の導入─台日両域を調査対象としたケース教材の開発とその応用を中心に─』

7.シェフツォバ ガリーナ
キエフ国立建設・建築大学 建築学部、建築基礎とデザイン学科・教授(ウクライナ)
『日本の歴史的なまちの再開発における経験:ウクライナでの活用』

8.都 基弘
韓南大学校・非常勤講師(韓国)
『室町時代の食文化における匙の基礎的研究─有職故実・料理の記録を中心に─』

9.唐 権
華東師範大学 外国語学院 日本語学科・助教授(中国)
『文化文政期における来舶清人と日本漢学者との交流に関する研究─蘇州・長崎・京都・江戸文人ネットワークの誕生と展開─』

10.山本 直樹
カリフォルニア大学 サンタバーバラ校 映画・メディア学科・助教授(アメリカ)
『京都学派と日本の視聴覚メディア理論史との相関関係』

11.ライトウェル エリン リー
ミシガン大学 アジア言語文化学部 日本古典文学・助教授(アメリカ)
『中世の「鏡物」と歴史叙述:日本の長い13世紀における末世と神国思想』

12.李 銘敬
中国人民大学 外国語学院 日本言語文学部・教授(中国)
『日本仏教文芸と唐宋文献との交渉関係に関する研究』

審査委員による講評

招聘研究者による研究報告の後、5名の審査委員からそれぞれ講評をいただきました。
まず冒頭に井上 優審査委員長から、15分という短い時間で研究報告をまとめることについてアドバイスがありました。「さまざまな分野の研究者が集まる報告会では、〝専門家にとって聞き応えのある内容を、専門家でない人にもわかるように説明する〟ことが必要となります。難しいことですが、これは自分の研究の全体像を本質的に捉えることにもつながります。自分の研究の一番大事なエッセンス、中心となることを1分で抜き出した上で、あとの14分はそこに補足していくために使うと、ちょうどよい時間になるのではないかと思います」と、具体的な提示をいただきました。
その他の審査委員の方々からは「日本語教育の現場が、より具体的、実践的なものに変わってきていることが実感できた」、「研究報告が非常に幅広い分野に渡り、どんなコメントをすべきなのか自分を試されているような気持ちでした」、「厳しい意見もあったが、それだけ審査委員たちが興味を持っているということであり今後の成果に期待している」などのお話がありました。
この報告会での経験を活かし、半年後の最終報告ではよりよい報告を聞かせてほしいと願う審査委員の強い期待感が伝わってくる講評でした。

研究慰労・交流会

報告会終了後、会場を移して交流会が開催されました。交流会では、招聘研究者が報告会の質疑応答で意見をいただいた審査委員や受入機関の先生方にアドバイスをもらったり、研究者同士、お互いの研究についての意見交換をしたりと、楽しくも充実した時間を過ごしました。


報告を終えた研究者の感想をご紹介します。

「来日してから半年間、フィールドワークを中心に忙しく活動してきたので、今回の研究報告会は自分の研究を振り返るいいチャンスになりました。また、審査委員の先生方からコメントをいただき、これから自分の研究をどう進めていくべきかという参考にもなりました。まだ整理すべき資料がたくさんあるので、残りの時間を有効に使って研究を進めていきたいと思っています」(唐先生)

「今回、審査委員の先生から歴史的建築物の保存について〝教育〟という視点をいただいたので、最終報告ではそのことも意識して発表したいと思います。私は質問されることが大好きなので、(最終報告会では)ぜひたくさん質問していただきたいです。今回、他の招聘研究者の方の研究で、まだ存在を知られていなかった古い資料が発見されたというお話を聞き、私も母国で同じように資料を見つけた経験があるので、そのことを思い出してなつかしく、またうらやましく思いました」(シェフツォバ先生)

「今日の研究報告では、あまりテーマが絞れていなかったため、イメージしている全体の授業像についてうまく伝えられない部分がありました。審査委員の先生から質問をいただいたことで、そこを説明することができてよかったと思っています。今回の滞在研究では、慶應義塾大学のケースメソッド教授法セミナーに参加でき、具体的な授業の運用の仕方についても自分のものになってきていると感じています」(羅先生)

「日本語で研究を発表する機会はあまりないので準備は大変でしたが、オーディエンスの反応はとても勉強になりました。受入担当の先生、審査員の方々からいただいたご意見も、とても参考になりました。8月の最終報告会では、現在分析・研究を進めている資料についても報告できるようにしたいと思っています」(アダル先生)

「この半年間、いろんな研究者の方と意見交換をしてきたのですが、さらに新しい視点からの意見をいただき、もうちょっと違うアプローチもできたのではないかと思っています。いただいたご意見は全部メモしましたので、これからどんなふうに解決したらいいのかじっくり考えたいです。また、説明不足の部分もありましたので、論文執筆、本の執筆にも今日の経験を活かして修正していきたいと思います」(劉先生)