コラム

Vol.126

by ひきたよしあき 2025.12.15

「語彙」のコトダマ

言葉は、不思議なものです。
同じ言葉ばかり使っていると、その言葉ばかりが頭に浮かんできます。

例えば、怒ったときに、

「むかつく!」

という言葉が口をついてでてくる。
その怒りが大きくても、小さくても、「むかつく!」
原因がはっきりしていても、よくわからなくても、怒りが湧いてきたら、「むかつく!」という言葉がでる。

なんでもかんでも「むかつく!」と言っていると自分の感情の小さな変化が読めなくなる。

怒りの感情=むかつく!
で過ごしていると、細かく自分の感情を分析することができなくなってしまいます。

語彙を増やす効能は、自分の感情を細やかに分析できるようになることです。

例えば、「むかつく!」の代わりに

「イライラする」

と言ってみる。イライラの「イラ」は、「苛(いら)」というトゲのある植物のこと。
イライラは、自分の思う通りにいかなかったり期待が外れたときに使う言葉です。
心が「苛(いら)」のトゲに刺されているような状態です。

「ムシャクシャする」

という言葉もあります。
「イライラする」との違いは、原因がはっきりしていないこと。なんだか気分が晴れない。
なんとなく楽しくない。

理由がわかっているときは「イライラ」、よくわからないときは「ムシャクシャ」。

こんな違いを知っていれば、今の自分の怒りを細かく分析できます。

そうなんです。語彙を増やすことは今の自分の気持ちを知るもっとも有効な方法なのです。

最近は、「やばい」「うざい」「かわいい」といった言葉をなんにでも便利に使いがちです。

しかし、便利なように見えるけど、心の中は、混沌とするばかり。
心を細やかに整理することができません。

最近は、子どもだけでなく大人の語彙も減少している。絵文字やスタンプを使うことを否定はしませんが、心のモヤモヤを解決するには語彙を増やすことが有効なのです。

「語彙のコトダマ」
これを増やしていくたびに、心が静かに整ってきます。相手の気持ちを汲み取ることもできるようになります。

語彙を増やすには、読書も大切ですが、なるべく、言い癖がついている言葉以外を日頃から使うことが大切でしょう。

「心配」と「不安」の違いとか、「なごむ」と「いやされる」の違いとか、色々考えてみてください。

「心配」は、決まっていることに対しての悩み、「不安」は、これから起きることへの恐れ。

「なごむ」は、仲良しの家族や仲間といるときの落ち着いた気持ち。
「いやされる」は、ストレスがやわらいでいくときの言葉。

そんなことを知るたびに、あなたの心も整理されていくことでしょう。

  • ひきたよしあき プロフィール

    作家・スピーチライター
    大阪芸術大学客員教授
    企業、行政、各種団体から全国の小中学校で「言葉」に関する研修、講義を行う。
    「5日間で言葉が『思いつかない』『まとまらない』『伝わらない』がなくなる本」(大和出版)、「人を追いつめる話し方、心をラクにする話し方」(日経BP)など著書多数。